東北電力管内の電力供給事情
東京電力管内に続き、東北電力管内も、明日3/16から計画停電実施です。つまり、ジオン公国の電力をかき集めて、ソーラレイに流し込むような事態なわけです(違。
その前に、東北電力管内7県(ややこしいことに新潟も含まれる)の電力供給事情を一般人の目でおさらいしてみました。ネタ元は東北電力公式です。
まず、東北電力の有する発電設備の概要から。設備容量は、総計で1,655万kWです。内訳は以下(数字は適宜丸めています)。
水力(210カ所:計242万kW)
第二沼沢発電所(揚水式発電所/阿賀野川水系):46万kW
宮下発電所(阿賀野川水系):9万4千kW
本名発電所(阿賀野川水系):7万8千kW
本道寺発電所(最上川水系):7万5千kW
柳津発電所(阿賀野川水系):7万5千kW
(以上、上位5カ所、その他205カ所)
火力(7カ所:計1,085万kW)
八戸(重油・原油):25万kW
能代(石炭、2基):120万kW
秋田 (重油・原油、3基):130万kW
仙台 (天然ガス):44万6千kW
新仙台(重油・原油・天然ガス、2基):95万kW
原町(石炭、2基):200万kW
東新潟 (重油・原油・天然ガス/LNG、6基/系統):460万kW
新潟 (重油・天然ガス・LNG、2基):39万9千kW
原子力(2カ所:計327万kW)*福島と柏崎の原発は東京電力のものです。
女川(沸騰水型、3基):217万4千kW
東通 (沸騰水型、1基):110万kW
地熱(4カ所:計22万4千kW)
葛根田(2基):8万kW
上の岱 (1基):2万8千8百kW
澄川 (1基):5万kW
柳津西山(1基):6万5千kW
上記は発電設備の能力です。実際の発電量とはイコールじゃないです。
次に、上記の発電所のうち、今回の震災で停止しているものを上げてみます。
- 原発:女川および東通(計327万kW)*報道あり
- 火力:八戸、仙台、新仙台、原町(364.6万kW)*仙台・新仙台および原町は停止報道あり。八戸は報道が見つからないが、津波被災地なので稼働させるのは難しいと推測。
つまり、原子力は全停止。火力は、太平洋側の津波被災地に位置する発電所が停止中。合計すると、692万kW分の設備が運転できない状態にある。つまり、総発電能力1655万kWのうち、41.8%が使えない状態です。
なお、地震の被害があったエリアには秋田県内の火力2カ所も含まれますが、そのうち秋田火力は運転を再開しています。
上記の、東北電力が自社で有する発電設備の他に、電源開発など他の事業者の発電所もあります(卸電力事業者:Independent Power Producer、略してIPPという)。東北電力は、これらの卸電力事業者から恒常的に電力を購入しています(他社受電という)。IPPからの電力供給量は、昨年の実績を見ると最大で約230万kWです。これらIPPの発電設備の被災状況は不明ですが、報道によれば、これらのうち最大の、70万kWの能力を有する酒田共同火力(電源開発)が運転を再開しています。
東北電力管内の電力需要はどうなのか、昨年の実績を見ると、2010年3月の電力需要(販売量)は約970万kWです(ネタ元は東北電力公式。公式の数字はkWhだが、時当たりに換算)。
では、現在、東北電力が発電できる電力量を推測してみます。
水力は設備だけなら計242万kWの能力がありますが、当然のことながら水がないと発電できないので、積雪期は能力が低下します。昨年の実績を見ると、3月の発電量は100万kWぐらいです。
火力は、能代も稼働できるとして、720万kW分の設備が無事です。ただし、設備の点検・整備の必要上、100%稼働するとは考えにくいです。なお、昨年の実績をみると、火力では単純平均で477万kWを発電しています。一見、稼働率が低いように見えますが、一日の中で電力需要には波があり、すぐに出力を上げられる火力はピーク時対応に使われるので、ならすとこんなものなのでしょう。稼働率をざっくり80%と見積もって、定常的には約580万kWを発電できるものと仮定します(甘い見積もりかも)。
地熱は、月あたりの平均発電量が最大でも13万kWぐらいです。地熱という自然エネルギーを相手にする性格上、稼働率を上げるのは難しいようです。ま、地熱はおまけ見たいなもんです。ざっくり10万kWとして計算します。
卸電力事業者の詳細は不明ですが、太平洋岸に立地する事業者もいるので、ざっくり100万kW分の能力が残っていると仮定します。
東北電力に残された発電能力は、
水力100万kW(昨年実績)+火力580万kW(稼働率を考慮)+地熱10万kW(ざっくりw)+卸100万kW(推測)=790万kW。
繰り返しになりますが、昨年3月期の東北電力管内の電力需要(販売量)は約970万kW。単純計算で約180万kWの不足です(ちょっと愕然)。
もちろん、太平洋側が震災でダメージを受けているため、現在の需要が昨年実績の970万kWを下回っているのは確実でしょう。東京電力管内で行われた「ヤシマ作戦」の実績をみると、節電運動もかなりの効果がありそうです。しかし、180万kWの不足を解消するのは容易なことではありません。震災によるダメージを考慮しても、直感的には数十万から100万kW程度の電力が不足するのではないでしょうか。
注記すると、上記の電力需要970万kWというのは、東北電力公式のデータから1日あたりの平均を単に割り算した数字です。繰り返しますが、電力需要には波があり、1日の中でピークに達する時間帯には、電力消費が上記の平均値を上回ります。つまり、単純計算でも、実際の需要を考慮しても、電力が足りなくなる時間帯が訪れる可能性がかなり高いわけです。
東北電力は、朝夕の停電予定時間で、それぞれ100万kWの電力消費抑制を目指しています。やはり、ピーク時には、そのくらいの電力が足りなくなると予想しているということです。
東北の電力需要は、気温があがって暖房需要がすくなくなる5月・6月には低下して、880万kWを下回ります。3月より約100万kW少なくなるわけです。この時期には、計画停電をしないですむのではないかと思います(節電は必要ですが)。しかし、夏には冷房需要で消費電力が急増し、8月には約1000万kWの電力が必要とされます(昨年度実績)。つまり、3月〜4月前半をしのいでも、8月には再び計画停電が必要になる、ということです。
福島原発の現状、また中越沖地震以後の柏崎刈羽原発の状況を振り返ると(運転再開まで2年以上を要している)、東通・女川原発の運転再開にはかなりの点検期間をとる必要があります。また、合計340万kWの能力がある仙台・新仙台・原町(福島県)の火力も相当のダメージを受け、復旧にはそれなりの時間を要すると考えられます。
つまり、我々は、かなり長い期間、この電力不足と付き合う覚悟が必要だ、ということです(東京電力管内を含め)。
以上、エネルギー業界人だけど電力じゃないしプラント施設関係の専門家でもない人間が、公開情報から考えたことをまとめました。
節電必要量って、ソーラレイ何発分?(あ、なんとかガンネタになった)。