J2 第37節 ヴァンフォーレ甲府 2 - 3 モンデディオ山形(観戦77試合目)

五年前の記憶。

このカードを初めて見たのは5年前、2000年の10月1日のことだった。場所は小瀬ではなく、同じ山梨でも富士吉田市にある、富士の樹海を切り開いて造られた富士北麓競技場。この競技場がワールドカップのキャンプ地に立候補していたため、誘致キャンペーンの一環としてJリーグの試合を開催した。この年は札幌が独走して昇格&優勝し、浦和が最後まで苦しみ抜いてJ1に復帰し、大分が2年連続で涙をのんだ年。一方、甲府と山形は絶不調。甲府は25連敗(一引き分け挟む)というJ2記録を打ち立てダントツの最下位、年末には累積債務と観客動員の不振から存続の瀬戸際に立たされた。一方の山形も成績不振でブービーを一人旅、当時の植木監督(現ザスパ草津総監督)がサポーターから辞任要求を突きつけられており、スタジアムには「植木ヤメロ」という横断幕が張られていたのを覚えている。一部で「独立リーグ」などと揶揄されたビリとブービーの対戦に集まった観客は950人ほど、よくも悪くもサッカーを良く知っている客ばかりであり、私が陣取ったメインスタンドからは異常なまでに的確なツッコミが容赦なく甲府の選手に浴びせかけられていた記憶がある。また、この年の甲府の選手は突っ込みどころ満載。とくに先発した新明という選手のものすごいヘタレぶりが印象的だった(どうもネタ系の選手だったらしい)。もっとも、この日は市原からレンタルで来ていたブルカ!の奮闘もあって(負傷退場したけど)、甲府が3-2で勝利を収め、久々のホーム勝利を飾った(連敗記録はすでにストップしていた)。そういえば役場職員の石原選手もまだ現役だった。一方の山形はぐだぐだの出来で、サポーターはわずか数人、その中に外人ねーちゃんが二人混じっていたのが目立った(どういう縁だったのだろう。ちなみにこの女性二人はこの年の浦和-山形戦@駒場でも見かけた)。プロリーグの底辺ってこんなものかと唖然としつつ、なんともいえない面白さを感じたのを覚えている。誘致キャンペーンに役立ったのかどうかははなはだ疑問だったが(結局、どうなったのだろう)。

それから5年、状況は大きく変わった。存続の危機を乗り越えた甲府は、地道な努力でファン層を広げ、今年の平均観客数は6600人ほど(人口20万の街で)。成績も徐々に上昇し、昇格争いに絡むまでになった。小瀬競技場のJ1規格への改修も決定し、着々と実力を蓄えている。一方の山形も柱谷前監督時代に大ブレイク、その路線を引き継いだ鈴木淳監督のもとでこちらもJ1昇格争いに参戦している。
試合前の順位は、甲府が勝ち点54の5位、山形が勝ち点60の3位。2位大宮に3ポイント差でなんとか食らいついていきたい山形、これ以上離されたくない甲府と、どちらも絶対に(笑)負けられない試合である。


甲府駅から小瀬までは直行バスで20分強(路線バスだと30分ぐらいかかるらしい)。どちらを向いても山が見える、いかにもな盆地である。曇っているのが惜しい。
大事な一戦に集まった観客は7000人ほど。甲府サポーターはバックスタンドの端に陣取る。一方、数十人の山形サポーターはゴール裏の芝生席に。こんどは外人にーちゃん二人組が参戦している(この二人、試合前にバス待ちをしていたとき、甲府駅前の床屋で値段交渉をしていたのをみたw)。競技場のスポンサー看板がずいぶん増えている。どれもローカル色満載なのだが、個人的にツボにはまったのは「納豆せんだい屋」なる微妙な店名のもの。仙台戦と水戸戦はどうするのだ?
この日は南アルプス市サンクスデーで、山形へは特産ワイン1ダース贈呈(うらやましい)。観客には先着1000名にぶどう一房がプレゼントされ(さすが甲府)、私もしっかりゲット。売店にはおでんとおやき。焼きたてパンに揚げたてポテト。
バックスタンドにビッグフラッグが翻り、観客は札幌並みのVメガホン連打、盛り上がったところで試合開始。


フォーメーションはどちらも中盤がフラット気味に構える4-4-2。甲府はGK阿部、DFが左から土橋-池端-津田-杉山、MFが横山-富永-倉貫-水越、FWが須藤と小倉。控えがGK松下、青葉、レレレのレ、石原、長谷川。アライールが欠場。
山形はGK桜井、DFが内山-レオナルド-小林-迫井、MFは宮沢-永井-大塚-星、FWが大島と梅田。控えがGK阿江、太田、高橋、秋葉、林。
ちなみに主審は上川さん。「え”?」(←後ろに座ってた人)。結局は上川さんの一つの判定がゲームを盛り上げてしまう事になったのだが・・・


両チームとも「モダンサッカー教科書 基礎編」なんてものがあったらこうなるだろうというプレーぶり。陣形をコンパクトに保ち、ラインを押し上げ組織的にプレスをかけて、できるだけ高い位置でボールを奪うことを意図している。両チームともこんなコンセプトのサッカーなので、ゴールキックのときにはフィールドプレーヤー全員がピッチの6分の1以下の面積に集まってしまう。守りの時はどちらも中盤とDFが2列に並び、FWがコースを切って追い込んだところにMFとDFが連携してプレスをかける。ただし攻撃の組み立て方は違っていて、甲府は小倉が攻撃の組み立てを担うのに対し、山形はFWの突破やボランチからサイドへの展開が主体になる。


試合序盤は甲府が優勢。中盤が出足良くボールを拾い、小倉を経由して攻撃を組み立てる。小倉はFW登録ではあるが、マイボールになると中盤まで下がってきてボールを受ける。ボールを受ける位置は中央だけではなくマークを避けるためサイドへも流れ、1.5列め付近を自由自在に動いている。小倉が下がって空いたスペースにはボランチやサイドMFが入れ違いに上がってくる。小倉はボールをキープして後方の選手の上がりを引き出した後、サイドに展開するなり、入れ違いに上がってきた選手に預けるなりした後、自分も前線に攻め上がる。サイドに流れている場合はそのままゴール前にクロスを入れる場合もある。しかし甲府はポゼッションで優位に立つものの、山形が集中して良く守り、なかなかシュートまで持ち込めない。16分、山形DFのクリアミスを拾った右SB杉山がミドルシュートを放つが桜井に弾かれる。前半、枠内にとんだシュートは結局この1本だけ。セットプレーのチャンスは多く、前半だけで3本のCKを得る。20分には左CKからうまい動きでマークをはずした須藤がフリーでヘディングシュートを放つがこれはバーの上。


対する山形だが、序盤は甲府に中盤を制圧されていたせいもあり、ロングボール主体の攻撃となった。大島・梅田の2トップが速さも強さもあるため結構迫力がある。20分以降は中盤でゲームをつくれるようになり主導権を握る。中盤でパスは回るし、サイド攻撃、とくに右MF星のドリブル突破が効果的なのでチャンスはつくれる。あとはFWの決定力、それも得点ランキング3位につけている大島はともかく梅田はどうかな、と思っていたら先制点を決めたのはその梅田。28分、星が右サイドをドリブルで突破し中へ折り返す。これを受けた梅田がうまく反転してゴール右側に蹴り込んだ。


これで甲府は攻めるしかなくなる。34分には右SB杉山がオーバーラップ、ライン際までえぐってグラウンダーで中に折り返すが山形DFがカット。39分には小倉がFKから直接狙うが惜しくもサイドネット。しかしパスミスが多く、それを山形に拾われてカウンター気味の攻撃を許してしまう。それでもひるまず攻撃を続けるが山形の堅い守りの前にシュートが打てない。


山形は少ないタッチ数でボールを回し、前がかりになった甲府の後方に広がるスペースを攻略する。足元へではなく、スペースに走り込む味方に次々とパスがつながり、攻撃のスピードを落とさずにゴール前までボールを運ぶ事が出来ている。フィニッシュは先制点を上げた梅田が担う。29分には甲府DFのクリアミスを拾ってシュートを放つが枠外。続いて35分にはカウンター攻撃から放ったシュートが枠を捉えるが阿部にキャッチされる。38分にはパスミスからカウンターになり8番がシュート、これも阿部がセーブ。しかし42分、CKを梅田が押し込み2点目。山形サポーターがフラッグを振り回しながらゴール裏芝生席を走り回る。43分には飛び出したGKより早くボールにさわった宮沢が無人のゴールを狙うがこれは外れる。
結局、山形2点リードで前半終了。甲府は結局シュート4本で枠に飛んだのはSB土橋のミドルのみ。


後半開始から甲府にメンバーチェンジあり。梅田に競り負けていた池端を引っ込め、本来MFのレをCBとして投入する。ところが開始直後の46分、またもパスミスを奪われて星に右サイドをえぐられる。ドリブルで持ち込んだ星が、FWが走り込むタイミングを見計らってDFとGKの間に速いクロスを入れる。山形2トップがやや重なって入ってきたが、クロスに合わせたのは大島。カウンター気味の攻撃であったため、甲府DF陣が戻りきれずGK阿部はなすすべがなかった。スコアは3-0。


このあと、山形は素晴らしい組織的守備を披露する。相変わらずラインが高くコンパクトな陣形が保たれ、甲府がDFラインでボールを持てばしっかりマークについてフリーの選手をつくらせず、くさびを入れさせない。やむなくドリブルで持ち上がろうとすれば、まずFWがパスコースを切り、ボールホルダーを追い込みにかかる。パスが出せないのでさらにドリブルで進むと中盤の選手が待ち受けている。常に二人三人が連携してパスコースを切りながらボールホルダーを囲い込んだところで、アタックをかける。たとえタックルをかわしてもカバーリングが万全で、結局はボールを取られるか、苦し紛れのパスを出すしかなくなり、それをカットされて速攻に結びつけられる。小倉はプレッシャーを避けるため下がって来ているせいもあってある程度ボールに触れているが、そこからの展開がことごとくカットされる。焦れた甲府サポーターは「シュート打て!」コール(最近あっちこっちでパクられているような)。60分すぎまで、甲府のシュートは55分の小倉のロングと、61分のこぼれ球をひろった須藤が放った物のみ。


甲府は攻撃のてこ入れに、55分に左MF横山を下げ石原を投入する。そのまま左サイドに入った石原はホームの大声援を受けて奮闘するが流れを変えるに至らない。山形は個人能力で勝負できる2トップと右MF星のドリブルを全面に押し出し、追加点を狙う。66分には、左MF宮沢に代わってはえぬき魂・高橋健二が登場、甲府にとどめをさしにかかる。ほぼ勝負あったかな、と思ったころに意外な出来事が待っていた。ペナルティエリア内でDFを背負ってボールを受けた小倉が倒れる。これに上川主審がPKを宣告。メインスタンドからは、たしかにDFが小倉の体に触っていたように見えたが、倒れるほど強く押していたかというと・・・・。当然、山形の選手たちは抗議するが判定が覆るわけはなく、PKを小倉が決めて甲府が1点を返す。


そしてホームの力と言うべきか、ここから流れが変わる。大声援を受けて甲府の選手たちがイケイケ状態になり、あれほどしっかりした守備を見せていた山形の動きが鈍る。交替で入ってきた14番が生きはじめ、左サイドを蹂躙する。山形は梅田を下げてスーパーサブ林を入れるが流れは変わらず。そして75分、石原がDFを引きつけ、裏のスペースにパス、オーバーラップしてきた土橋が中へ折り返す。これを受けた小倉が反転して放ったシュートがネットを揺らす。スタジアムも揺れる。甲府が一点差に追い上げる。


さらに甲府が攻め続ける。甲府は完全に前がかりになり、両FWにサイドMFおまけにSBあるいはボランチまで上がってきて5トップ状態になる。必然的に中盤とDFラインの間に大きなスペースが広がり、これを利用して山形がカウンターを仕掛けるが、甲府DFが体を張って耐える。この時間、甲府がリズムよくパスをつなぎ、左サイド主体に崩す。78分には左CKから混戦となり、3回?ほどヘディングで押し込もうとするが山形DFがクリア。
81分に今度は甲府に不利な判定。左サイドでボールの奪い合いになり、山形の選手が触れてタッチを割ったかに見えたが山形ボールの判定。これで微妙に流れが変わり始める。
それでも83分に同点のチャンスが訪れる。またもや石原が左サイドエンドライン際までえぐり、勝負にでる。相対した山形DFをかわして中へ切れ込み、角度のないところからシュート、GKの手の先をかすめたボールがサイドネットに吸い込まれるかに見えたが、ポストを直撃してしまう。頭を抱えるスタンド。


これ以後は山形が次第に落ち着きを取り戻す。甲府は84分に長谷川太郎を投入(水越out)し3トップにするが、一度失った流れは取り戻せなかった。山形は86分に大塚に代えて秋葉を入れ中盤をてこ入れし、ボールキープで時間を使う。そしてタイムアップ。山形は入れ替え戦圏内3位をキープする貴重な勝利、甲府はその山形に9ポイント離されるあまりにも痛い敗北となった。


続きはのちほど。感想だよ。