2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その1(第8節アウェイ千葉戦)

東日本大震災による中断からの再開初戦は、晴天のフクアリでのアウェイゲーム。
第1節、千葉はオーロイアタックで北九州に快勝、リーグ再開までに、さらにチームの熟成を深めてきた様子。一方、開幕戦、グダグダながらも谷澤の怪しげなゴールでなんとか勝ち点3をゲットした東京は、中断期間中の練習試合で、今季の要と位置づけていた平山を負傷で失います。バックアッパーである高松も負傷が癒えたばかりで、コンディションが心配のタネでした。


しかし、フタを開ければ東京は良好なパフォーマンスを披露して、優位にゲームを進めます。振り返れば、2011年版オリジナル東京、いわば「大熊東京1.0」のベストパフォーマンスともいえる試合になりました。


この頃の東京は、地上戦路線に転換した第13節・ホーム湘南戦以降のチームと異なり、後方にボールを戻してやり直す場面は少ないです。しかし、縦に早く速くボールを持ちだす多様な手段を持っていました。

まず、速い展開からのサイドアタック。これは、きついプレスの中でもボールを散らせる米本の存在が大きい。また、高松も前線でのボールの預けどころとして機能。それに加えて、谷澤の長いドリブルや梶山のキープ力がアクセントになり、狙いどころを絞らせない効果を発揮していました。


守備面でもボールホルダーへの速く厳しいチェックが実現できており、大熊さんが本来やりたかったであろうサッカーを具現化できた、唯一の試合だったと思います。


ただし、東京の課題はフィニッシュ。千葉は自陣深くまで持ち込まれるとゴール前を固める傾向が強く、ペナルティエリア内でのマークはタイトでした。反面、ペナルティエリアの外縁部にはスペースがあり、そこを使って決定機を作ることができてのも事実。とくに、谷澤は公式記録で計5本のシュートを放ち、その中には絶好のシチュエーションで打ったものが多かったのですがが・・・我々は、谷澤ノーゴール伝説の始まりを見ることになったのです。今はネタにまで昇華できたようですけどね。


千葉の攻撃は、一目でわかるオーロイ大作戦。オーロイへのロングフィードが攻撃のスイッチとなり、落としを受けようとする米倉・深井の動きが秀逸。機を見て前線に飛び出してくる佐藤勇人も良いアクセントとなっています。また、遅攻のケースでは伊藤大介の散らしが地味に効いていました。


直接的にオーロイを使うだけではなく、オーロイがマークを引きつけることによってできたスペースを利用して攻撃を組み立てる場面も目立ちます。オーロイへのロングボールは東京もしっかりとケアしてきたので、むしろオーロイを間接的に利用する攻撃のほうが主だったのではないでしょうか。


前半の終わり近くで米本を失うアクシデントがあったものの(解説の城福さんは、米本が着地した瞬間に舌打ちをしている)、東京が主導権をとって試合を進めていました。しかし、決定機をものに出来ないまま時計が進み、ゲームは膠着状態に陥りつつあるように見えました。


そう、あの反則技が炸裂するまでは。


千葉の先制点は、東京の今季初失点。「日本サッカーのストーク・シティ化」の先頭を走るジェフ千葉の必殺技、ミリガンのロングスローからオーロイ、というパターンでした。
ミリガンはケガ明けということもあって、後半頭からスタメンのセンターバックだった青木良太に代わって出場しています。


交代の目的は、前線の起点となっていた高松への対処だったと思います。ミリガンはドワイト監督の期待どおりに高松に入るボールを潰し、ゲームの流れから消すことに成功しました。


最初にロングスローを披露したのは59分。ターゲットはもちろんオーロイ。このとき、東京DF陣はばたつきながらもなんとかクリア。情報としては知っていたが、実際にあのスピード、あの弾道のロングスローを受けるのはおそらく初めてだったのでしょう。


そして77分、(たぶん)ミリガン3本目のロングスローの場面。オーロイのバックヘッドの瞬間の画像です。

東京は、ペナルティエリア内での数的優位を確保していたのですが・・・まあ、意味なかったですね(苦笑)。
ここまではオーロイを良くマークし、制圧はできないまでも自由にやらせないことに成功していた森重でしたが、この場面ではジャンプするときに手で押さえ込まれていました。



森重レベルのDFだったら、対戦経験を積めば相手との競り合いのコツをつかんで、妨害に成功する確率を上げられるのでしょうが、この試合はオーロイとの初対戦。そしてミリガンのロングスローも初体験。止められない場面が出てくるのは仕方がないでしょう。
対策としては・・・今野も体をぶつけてできるだけ自由にやらせないようにするぐらいしか思いつきません。それでも、止められるんだろうか、アレ。
あのスピード、あの弾道で身長2mの選手に合わせられたら・・・こっちも身長2mのセンターバックを用意するしかないですね。


こういう技を持つ選手が各チーム一人ぐらいずつ出てきたら、サッカーが変質してしまうのではないでしょう。あ
ああそう、「変化球ロングスロー」を会得した選手が出てきたら、現代フットボールの歴史は終わるでしょう。



とにかく、ここまではむしろ「影」だったオーロイが実態化した瞬間、試合が動きました。



千葉が追加点を上げたのは、83分のこと。今度は、オーロイの隠し芸からの得点でした。

シチュエーションとしては、ロングボールを使った速攻。直前の画面では、森重のどアップが映っていたので、フィードを出したのが誰なのかは分かりません。
中盤を飛ばしてオーロイにロングボールが届いたとき、最終ラインでは4vs4の数的同数になっています。千葉がキックオフから行っていたオーロイへの速いサポート、それをゲーム後半になってもやり続けています。



ロングフィードオーロイに収まり、ルックアップします。ここまで、ロングボールを受けるオーロイに対し、多少引いた位置であっても、森重がDFラインを飛び出して当たりに行っていたのですが、この場面では数的同数だったためか、ラインを保ってリトリートする選択をします。
このとき、すでに青木孝太米倉がラインの裏へと動き出しているのですが、今野がボールウォッチャーになってしまって対応が遅れました。あの今野が。やはり、ああいう形で先制されて、焦りがあったのかもしれません。



そして、なんとなんと、電柱だとばかり思っていたオーロイが狙い澄ましたスルーパスを出すのです。コース・スピードともにどんぴしゃり。森重が足を伸ばしてもわずかに届かない位置にパスが出されていました。
そして、青木孝太米倉は完全に裏を取ります。



結果、なるようになりました。今野の追撃は間に合わず、最後の砦である権田も股間を抜かれる。
ラインをブレイクし、森重がオーロイを押さえに行っていれば防げたかもしれない失点。悔やまれる判断になりました。ま、オーロイがスルーパス出せるとは思ってなかったんでしょうね(嘆息)。




そして、トドメとなった89分の3失点目。
この失点は、千葉がオーロイを間接的に利用することによってフィニッシュに持ち込み、そのオーロイが最後を決めたものです。

画像はオーロイにロングボールが送られた瞬間のもの。この試合でよく見られた状況でです。オーロイに対し、東京は梶山と上里徳永の二人が当たりに行っている。その両サイドには、ポッカリとスペースが出来ています。
このとき、2点差をつけられた東京は今野をトップに上げてパワープレーに出ていました。最終ラインは3バックになっています。



オーロイが競ってボールがこぼれる。スロー再生でみると、オーロイが触っているかどうかは微妙。頭にちょっとかすった程度だったように見えました。
試合開始からやっていたように、オーロイが競ったボールに対して米倉が詰める。頭でプッシュしたボールが深井に渡ります。



深井にボールが渡った時点で、森重が引きずりだされています。青木孝太のマークが浮き、阿部巧カバーリングに動きます。
2点リードしている千葉は、この時間帯になると前の4人だけで攻撃していて、今野を前に上げたにもかかわらず東京は後方で5対4の数的優位を確保しているのですが、オーロイに2人行ったせいで、椋原と徳永が無力化されました。
そして、森重が深井に股を抜かれ、青木孝太にパスが通ります。



深井のパスを受けた青木孝太はヒールでオーロイに流そうとしますが、ここは阿部巧が詰めてカット。しかし、跳ね返りを収めた青木孝太は、プレーを切り替えます。
画面右では、オーロイがファーポストに向かって動き出しています。梶山は・・・・なんでマークを放してんの???



プレー選択をクロスに切り替えた青木孝太が、前進してクロスを上げていきます。阿部のタックルは間に合わず。そして、フリーのオーロイがクロスに合わせようとファーポストへ飛び込むタイミングを見計らっています。



ちゅどーん・・・・・
森重は、結局3失点を阻止する機会がありながら、それができなかったことになります。センターバックは厳しい・・・



内容的には互角以上の戦いをしたにもかかわらず、スコア的には惨敗を喫し、かつ米本を失った東京はリズムを崩し、続く札幌戦と東京ダービースコアレスドロー。富山戦では、羽生のアディショナルタイムのゴールで辛くも勝ち点3を得たものの、アウェイの正田でラフィーニャ擁する草津に敗れた上に高松まで戦列から失い、窮地に立つことになります。が、それは後の話。



この試合では、影に陽に、オーロイの存在を最大限に生かす術を身につけていたことが千葉の勝因でした。「影」と「陽」の両方、というのがミソで、結果的には東京は初対戦となるオーロイに翻弄された結果になりました。そして、ゲームを動かしたミリガンのロングスロー。これも実地に経験するのは初めてで、つまるところ、千葉は奇襲効果を最大限に利用したのだと思います。


そして、東京が縦に速いサッカーを指向していたことも、試合の綾になっていました。解説で城福さんも言ってましたが、オーロイは守備ができません。シーズン中盤以降の東京だったら、後方で繋いでオーロイを振り回した上で攻撃を組み立てることが可能でしょう。そして、ボールを保持することはオーロイの高さを発揮する機会を減らすことにもなる。


ホーム最終戦は千葉との戦い。それまでに、おそらくオーロイは出場可能にまで回復しているでしょう。スタイルを転換した東京がパワープレー命の相手にどういうサッカーを見せるか、期待したいです。



「今季のFC東京全失点レビュー」シリーズはしばらく続きます。第31節終了時点で、東京の失点は15。京都戦の7点目まで素材は集めてあるんで、順次アップしていきます。最終的には全失点をレビューし終わるまで続けますので、気長にお付き合いいただけたら幸いです。
あ、これ以上ふやさなくていいからね。


それから、失点をじっくり振り返るなんて余裕を作ってくれた羽生さんとその仲間達に最大限の感謝を捧げたいです。大熊さん? 頼むから、草民じゃなくて梶山の守備をなんとかしてくれよ〜


それから、なんでエントリのタイトルが「森重真人の憂鬱1」かというと、つまりそれは2も3もあるということですよ、奥さん!


次回は、あの敷島の敗走、ラフィーニャの今季初得点(!)と2点目をレビューします。