2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その2(第12節アウェイ草津戦)


リーグ再開の初戦、内容的には大熊さんが本来目指したサッカーを実践できたものの、オーロイ&ミリガンアタックの前に3失点の大敗を喫した東京。その後、リズムを崩して得点を奪えない戦いが続き、前節の富山戦では羽生の一撃でなんとか勝ち点3をゲットして、強風吹きすさぶ正田醤油スタジアムに乗り込みます。


序盤から、草津が前から激しいプレッシングをかけ、東京のビルドアップを妨害します。草津はプレスバックも速く、たとえ前プレを突破できても攻撃を遅らされ、ブロックを作られて立ち往生してしまう場面が続きます。


前線では高松が起点になろうとしていますが、フォローが遅く孤立して潰される状況。むしろ、サイドでの競り合いから得たセットプレー、特に椋原のロングスローが効果的でした。正確なボールが入れば高松は体の強さを生かして効果的なポストワークができる選手なのです。


草津の猛プレスが20分すぎに一段落すると、東京がボールを保持してサイドから攻めます。連携が良いとは言い難いのですが、とにかく相手陣内に攻め込む。
そして28分、椋原のロングスローを高松がボックス内で落とし、それを拾った鈴木達也が仕掛けて、PKゲット。これを梶山が決めて、東京がなんとか先制します。


しかし、その直後、草津の反撃を受けることになります。そのきっかけとなったのは今野のクリアミスでした。

ロングフィードのセカンドボールを巡る競り合いの中、今野がクリアを真上に打ち上げてしまいます。同じくボールに詰めてきた上里と重なったこと、強風下のプレーで風の影響を読み違えたのかもしれない。蹴った瞬間、「しまった!」という表情をしています。



今野が打ち上げたボールの落下地点に入ったのはアレックスでした。アレックスはしっかりボールを収め、ここから草津ショートカウンターが始まります。前線に出ていく熊林をケアすべき位置にいる鈴木達也の視線がアレックスに向いていて、熊林を見ていないのがミソです。



ボールを収めたアレックスに対し、今野、徳永、上里の3人が寄せます。しかし、アレックスはここを踏ん張ってフリーのラフィーニャにパスを送ります。
阿部巧は、サイドに開いている後藤も見なければならないため、ラフィーニャに寄せられず。熊林が来ているため、森重もディフェンスラインにステイせざるを得ません。
熊林をマーカーすべき鈴木達也は、既に遅れています。一つ前の画像で、一瞬ボールウォッチャーになっていたことが響いています。



ラフィーニャはワンタッチで熊林にはたきます。鈴木達也は完全に離されて、熊林はフリーです。画面に映っていませんが、東京の右サイドから椋原が絞って来ています。



熊林がまさにラストパスを出す体勢になったとき、ようやく達也が近くに来ますがまったく効いていません。ディフェンスラインでは、森重がラフィーニャに付いていく動きを始めます。
熊林は裏へ動くラフィーニャへスルーパスを送ろうとしますが、右サイドから絞って来た椋原がパスコースを制限しています。



椋原がしっかり最短距離のコースを押さえたため、熊林はやや左サイド寄りにパスを出さざるを得ません。ラフィーニャには森重が追走。ラフィーニャがボールに先に追いつくでしょうが、森重がシュートコースを塞ぐことができる・・・ように見えたんですが・・・



森重は付いていってるんだけどねえ・・・(でも、ラフィーニャが速いので、間合いがちょっと遠いかな)。



ラフィーニャはそのスピードで森重に間合いを詰めさせず、シュートコースを確保して左足でシュートを放ちます。トップスピードで斜めに動きながら腰をひねって打つという、体の強さを要求されるプレーです。



夜の特訓で鍛えた(?)腰振りシュートが見事に権田の股間を抜きます。あちゃー。
ラフィーニャはこれが2011年シーズンの初得点。え?


次は66分、この試合の決勝点となった草津の2点目についてです。決めたのはまたもラフィーニャ


後半に入っても草津の守備は堅いです。ゲーム序盤のような猛烈なプレッシングはかけていませんが、がっちりとブロックを固め、入って来たボールを潰しにかかります。東京はトップに張る高松が孤立気味で中央では起点を作れませんが、自陣ではある程度ボールを持てるためサイドに出すことはできるようになっています。しかし、連携というものを失っているチームは、相手に脅威を与えるプレーをすることができません。


53分にセザーが入ると、そのドリブルとキープ力で攻撃のアクセントとなりますが、前線の選手間の連携は良くなりません。
そして57分、高松がシュートを打とうとして草津DFと交錯、膝を強打して負傷退場、結局、長期離脱することになってしまい、東京はポストプレーヤーを失います。


草津は、シンプルに2トップに当てて、彼らの強さ・速さ・キープ力を生かすやり方を取っていました。熊林が2トップに絡んでチャンスメークを担います。そして、60分ごろから右サイドでの仕掛けが目立ち始めます。サイドバックの古林が積極的にオーバーラップを仕掛け、右MF後藤とのコンビネーションを見せていたのです。この、東京から見て左サイドのケアを怠ったことが、失点の原因となります。



草津が右サイドでキープして、いったんボランチに戻した時の状況です。パスを受けた松下が再びサイドへの展開を試みます。
このとき、東京はセザー・達也が2トップを組み、右に羽生、左に谷澤、ボランチが梶山・徳永という4-4-2。勝ち越しを狙って重心が前にかかっています。この画面でも、谷澤が高い位置に張っています。



あっさりと展開パスを通されて(そもそも、ここに問題が・・・)、タッチライン際に張っていた後藤にボールが渡ります。中盤が戻ってこないため、阿部巧が一人でサイドのスペースをケアしています。



後藤涼がキープして、味方の攻め上がりを待ちます。この時間帯、積極的なオーバーラップを見せている右サイドバックの古林が、この場面でも攻め上がってきます。東京の選手は、誰も付いていっていません。東京の左サイドは1 vs 2の数的不利に陥っています。あ、巧は後藤の影になってよく見えません。
ラフィーニャ、アレックス、櫻田の3人がゴール前に入ってきます。その後ろから、熊林も上がってきています(画面外)。



後藤は追い越しをかける古林にパスを送ります。阿部巧は後藤のマークを放り出してついていこうとしますが、全力疾走する古林に対して、すでに遅れています。ここで、ようやく谷澤が戻ってきますが、局面に関与するには遅すぎます。
ゴール前では草津の選手が4人。対する東京は、今野がニアポスト側で一人余っています。



古林がファーストタッチでスピードを保って裏を取れる場所に流します。これで巧が追いつくチャンスがなくなり、古林はクロスを上げるスペースを得ます。
一方、ボックス内では4 vs 3の数的優位を確保している東京。それを覆すべく、草津の2選手が動きます。アレックスと熊林がニアサイドに動き始めたのです。
ここでの注目はファーサイドラフィーニャがバックステップで椋原から離れていきます。椋原はラフィーニャの動きに気付いていましたが、サイドが気になって目線を切ってしまいます。



ゴールライン際まで抉った古林がマイナスの折り返しを入れます。ニアポスト側を固める今野がさわれないコースです。そして、アレックスと熊林が、それぞれマーカーを一人ずつ引き連れてニアサイドに動いています。その目的は、DFを引っ張ることによってファーサイドにスペースを作るため。
ファーサイドでは、リトリートしたラフィーニャが待っています。椋原はボールウォッチャーになっていて、ラフィーニャへの意識を一瞬ですが切ってしまいます。



ニアで熊林が潰れます。アレックスはDF1枚を引っ張ってポスト近くまで走り、役目を果たしました。
クロスがファーに抜けます。ラフィーニャが画面の外から出てきます。フリーです。椋原があわてて向き直りますが、時既に遅し。



ちゅどーん
サイドを完全に崩されての失点でした。


繰り返しになりますが、この時間帯、草津は右SBの古林が再三オーバーラップをかけ、後藤とのコンビでサイドの切り崩しを狙っていました。現に、63分には後藤にいい形でクロスを上げられています。
左MFに入った谷澤は本来、守備でも貢献できる選手です。あるいは達也でも良い。だが、彼らは前に出たままだった。大熊さんは、サイド攻撃を重視する監督です。しかし、サイドの数的不利を修正することができなかった。
焦りがあったとしかいいようがないでしょう。


ラフィーニャのストライカーとしての能力(技術、フィジカル、駆け引き)に翻弄されたかたちとなりましたが、相方のアレックスも効いていました。その体の強さを生かして前線での起点となり、ラフィーニャと熊林に時間とスペースを与え続けていました(前半の失点シーンでは、アレックスがマークを3人引きつけている)。東京の両センターバックは、ラフィーニャだけでなく、アレックスへの対応にも苦労していたのです。


それから、勝負の綾はやっぱり前半の失点だったと思います。苦戦しながらもPKで先制した直後の失点。おまけにきっかけは守備の要の今野です。本人もまわりもショックだったのではないでしょうか。あれが茂庭ならまあしょうがねえかで済んだかもしれませんが。
1-0のままであれば、無理に前に出てバランスを崩す必要もなく、後半の失点もなかったかもしれません。


もっとも、この完膚無きまでの敗戦がなければ、次節からの地上戦路線への転換は徹底さを欠いたものになったかも知れません。
ここまで追い込まれたから精神的にふっきれた。そういう要素があったように思います。


敷島の敗走、それはチームの軸足を定める転換点になったのです(と思える現在に感謝しましょう)。


もっとも、すぐにうまくいくかといえばそう甘くはなかった。翌週の第13節はホーム味スタでの湘南戦。そこで東京は、策士・反町の一人芝居的な七転八倒の前に、足をすくわれることとなります。