2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その3(第13節ホーム湘南戦)


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敷島の敗走から1週間後の味スタ。今度は、ともに降格した湘南ベルマーレとの一戦です。


平山に続いて高松も長期離脱となり、ポストプレーヤーを失った東京。いやおうなく地上戦路線への転換を強いられ、メンバーが変わります。中盤に羽生、田邊を入れ、流動的に動くトップのセザーをサポートする体制をとります。また、左SBにはクロスを武器とする阿部巧から、個の力でボールを縦に運ぶことができ、かつ守備力で上回る中村北斗を起用。梶山もトップ下からボランチへとポジションを下げます。
ただし、この時点で徳永はまだボランチ起用、高橋秀人はベンチスタートです。


対する湘南は、ここまで3勝1敗2分で5位。ここまでわずか2失点の粘り強い守備をベースに勝負強い戦いをみせ、悪くないスタートを切っています。サポーターの意気も高く、ものすごく声が出ていたのが印象的です。「将来の首相候補」らしい河野太郎さんも、この頃はよく湘南のことをツイートしています(その後、極端に減りますが・・・w)。


キックオフ直後から、東京は明らかにこれまでと違う戦いを見せます。前線でセザーと羽生が常に浮いたポジションを取り続け、梶山と田邊を起点にパスが繋がります。流動的でかつ連携のあるサッカー。「ムービング」の再来です。


そして開始早々、湘南が試合に入りきらないうちに、リスタートの流れからセザーの一撃で先制します。
東京はその後もチャンスを作り続けますが、もう一つの病である「得点力不足」という問題は解決せず、なかなか追加点を奪えません。ボランチの位置まで下がって起点になっていた田邊がマークされはじめたせいもあって、時間の経過とともに攻撃の勢いが低下します。


しかし、東京の守備は機能していました。4-4-2の守備ブロックのバランスが良く、流れの中では湘南にまともなシュートチャンスを与えません。脅威となったシュートは、前半終わりごろに石神がクリアボールを強引に撃っていったクロス性のものぐらいでした。これは権田が横っ飛びで弾き出しますが、録画でみると枠へ行っているかどうか微妙です。むしろ、策士・反町があの手この手を尽くしたセットプレーのほうが脅威でしたが、集中を崩さない東京守備陣は決定機を許さず。



後半も東京の守りを崩せないまま時間が経過します。最低でも勝ち点1を持ち帰り、これまでの良い流れを保ちたい反町監督は、業を煮やして選手交代とフォーメーション変更を同時に行い、状況の打開を図ります。
65分、巻・高山の先発2トップを引っ込め、佐々木と菊池を投入。フォーメーションを4-3-3に変更します。前線は佐々木が中央、その両翼にアジエルと菊地を配し、中盤は永木・坂本のインサイドハーフとハングキョンのアンカーという形にしてきます。「前への推進力を増すため」というのが理由です(と反町さんが言っていた)。
この交代&システム変更は、確かに攻撃のてこ入れにはなりました。前半はほとんど仕事ができなかったアジエルがトップ下の位置に流れてきて、ボールに触る機会が一気に増えたのです。



上の画像ではセンターサークル付近で前を向いて仕掛けています。東京は流れの中で中盤とトップが入れ替わっているときにカウンターを受けたため、対応しているのはセザーと達也です。このあと、アジエルはボックス内までドリブルでボールを運びます(今野が潰す)。以後も、アジエルはセンターサークル付近に位置取り、ボールの預け所となって湘南の反撃の起点となります。次の画像で説明するように、アジエルのポジショニングは守備面でリスクを背負うことになります。しかし、この時間帯、アジエルの存在を東京の守備陣に意識させておいたことが、湘南の同点弾の伏線になります・・・



ただし、湘南のシステム変更は守備面での歪みを生むことにもなりました。アジエルのオリジナルポジションは3トップの右です。マッチアップ的には、東京の左SB・中村北斗を見なければなりません。現に、3トップの左に入った菊地は守備時にタッチライン際をケアしています。しかし、アジエルはピッチの真ん中に陣取ったまま戻ってこない。当然、湘南の右サイドはガラ空きです。もともと縦への推進力を持つ北斗が前を向いて仕掛ける場面が目立ち始めます。圧力を受けた湘南のDFラインがズルズル下がり始め、ボランチとの間にスペースが空いてきます。上の画像でも、湘南のDFラインが丸裸になっているのがわかります。このスペースを使って、右サイドではセザーが勝負を仕掛けるようになります。湘南は東京の両翼包囲をうけることになったのです。



この状況に慌てた反町さんはすぐに手を打ちます。4-3-3へのシステム変更からわずか10分後、75分には坂本を引っ込めて中村を投入し、4-4-2に戻します。2トップが中村と佐々木、中盤はアジエルが右、菊地が左、ボランチが永木とハングキョンです。いちおう、アジエルがサイドのスペースを埋めるようになって、とりあえずパッチ当てはできた格好です。策士、策に溺れる寸前で踏みとどまりました。反町さんってのは、この手の自作自演が多いような気がする(苦笑)。


前振りはここまで。ようやく、78分の失点シーンです。FC東京、2011シーズンの6失点目です。臼井のクロスに中村が飛び込んで、ヘディングシュートでの失点でした。このとき見ていて思った疑問は、「なんでサイドのカバーをしていたのがセザーなの? そもそもなんでセザーだけなの?」。答えはアジエルです。

このとき、湘南は左スローインから始まって、なんと16本ものパスを繋いで中村のシュートに結びつけています(数え間違えてたらすいません)。上の画像は、スローインをいったんDFラインに戻してから永木を経由してアジエルにパスが渡る場面です。5本目のパスだったかな。湘南の左サイドでのパス交換だったので、アジエルがセンターサークルまで入り込んでます(またか・・・)。寄せるのはこの試合でMFをやっていた達也。湘南のパス交換で東京の守備ブロックが片寄せされて、中よりに絞っていたのです。サイドに流れていたセザーが達也の空けたポジションを埋めます。



湘南の7本目のパス、ハーフウェイ近くまで押し上げたCB大井がサイドに展開を試みる場面です。湘南のテンポの良いパス交換が続いていたので達也はそのまま前線に残り、セザーがサイドのスペースを見ることになります。ただし、この時点では東京が4-4-2のきれいなブロックを形成しています。
このあと、湘南は左サイドでパスを回して東京陣内にボールを運びます。



もう一人のCB・遠藤を経由して、湘南から見て左サイド側で永木→石神→永木→佐々木→永木とパスを交換し、ボールが菊地に回ります。上の画像は菊地が14本目のパスを出そうとするところ。湘南のテンポの良いパス交換の前に東京の中盤は奪いに行くタイミングを掴めず、ブロックを保ちつつ様子見の構え。東京の守備ブロックはサイドにスライドした形になっていて、北斗がペナルティアークの前にいました。


ここで菊地がボールを収めてルックアップします。この場面で、菊地には後ろに戻す以外に2つの選択肢があります。逆サイドに開いている臼井にサイドチェンジを送るか、アジエルに預けるかです。
臼井へのサイドチェンジは、グラウンダーだと北斗にカットされる恐れがあり、浮き球だとボールコントロールに時間がかかって東京に守備ブロックを再構築する時間を与えてしまう可能性があります。
アジエルはフリーです。ボールを持って前を向くだけのスペースは十分にあります。そして65分のシステム変更以後、なんどか可能性のあるプレーを見せていた、という実績があります。


ここで北斗が動きます。アジエルを危険視し、プレッシャーをかけようとディフェンスラインから飛び出して行くのです。あり得る判断ですが、サイドのスペースをセザーだけに委ねる危険性もある選択です。そして・・・



飛び出す北斗の背後に菊地がグラウンダーのサイドチェンジを送ります。絶妙なコースです。菊地の技術の前に、北斗は文字通り裏を取られました。セザーはパスカットを試みますが・・・



セザーは足を伸ばしたのですが届きません。コーナーキックになってもいいから、スライディングで蹴り出して欲しかったんだけどね。まあ、本職じゃないから・・・とにかく、臼井にボールが渡ります。
問題はゴール前です。湘南は中村と佐々木の2人が動いています。ファー側の佐々木を椋原が、中央の中村を森重が見るかたちです。今野は背後を森重と椋原にまかせ、ニアポスト側を警戒します。



ここで、臼井がキーパーとDFの間にクロスを送ります。権田は出られず、今野も届かず、というコースです。この時点で今野は無力化されています。
ゴール前に入ってくる湘南の選手は2人、残る東京のDFも2人です。ファーの椋原は佐々木の前にしっかり入っています。ゴール正面では・・・あれ、中村が今野と森重の間に入ってる・・・森重がボールウォッチャーになっていて、前に入られてしまいました。
中村はプルアウェイとかなんとかの駆け引きは使っていません。クロスに合わせようと素直に動いていただけです。こういう動きにはしっかりついていって欲しいものです、はい。



ちゅどーん


東京はセンターバックの間を抜かれて失点するという失態をやらかしました。
1.湘南のパス交換を潰すタイミングを掴み損ねた中盤、2.ラインから飛び出した北斗の判断が裏目に出たこと、3.セザーのFWらしい?おざなりな守備、4.そして森重のボールウォッチャー。失点の要因を上げればこれだけあります。
また、森重か・・・昨季に比べればだいぶ安定してきたんですけどねえ。


湘南側には、華麗なパス交換、狭いところを通すサイドチェンジ、GKとDFの間へ教科書通りに蹴った臼井のクロス、それにドンピシャリで飛び込んだ中村、と好プレーが続きました。
そして、その影にはアジエルの存在がありました。決定的な仕事はできなくともピッチ上に存在するだけでマークを引き寄せ、他の選手に時間とスペースを与えるプレーメーカー。その間接的な影響力によって喫した失点といえるかもしれません。


そして、アジエルの存在を東京に印象づけたのは、一見裏目に出たように見える反町監督のシステム変更だったのです。たぶん、反町さんがイメージしたのとは斜め上の結果でしたでしょうけど(笑)。



東京はこの失点の直後に大竹を投入、最後の反撃を試みますが得点は奪えず。路線変更1試合目は苦いドローという結果になってしまいました。この試合で見せたサッカーは城福時代から積み上げてきた路線の延長上にあるもので、そういう意味では付け焼き刃ではないのですが、しばらく使っていなかったので研ぎが足りなかったようです。しかし、内容的には今後への希望を抱かせる試合でした。


次節は、失意を味わったあの西京極であの京都との対戦です。ここで負けたら(禁則事項です)だったかもしれない試合でした。
そこで東京の前に現れたのは、去年とは真逆の、エクストリームな攻撃サッカーを目指して暴走する大木サンガでした。