2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その4(第14節アウェイ京都戦)


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前節はパスを繋ぐサッカーに手応えを感じつつも終盤に追いつかれ勝ち点1に終わった東京。
第14節は因縁の西京極に乗り込みます。
この試合から徳永がようやく本来の右SBに戻り、ボランチには高橋秀人が開幕戦以来のスタメンで起用されます。また、鈴木達也が練習中に負傷したため、右MFのスタメンは大竹です。


京都はセンターバック属性の選手を数多く擁し、4CBと揶揄された昨季から大幅に変わっています。水本、郭、増嶋、角田といったガチンコな面々がクラブを去り、大木武監督のもとパスを繋げる選手でチームを構成、若手を抜擢してメンバー、スタイルともに一新して今シーズンに望みました。しかし、大木監督のサッカーがなかなかチームに定着せず、ここまでの7試合で勝ち点5の18位に沈んでいます。
チームの中心と頼んだ工藤がキャンプ中に負傷して長期離脱することになったり、大木サッカーの申し子である秋本も負傷で出遅れ、という不運がありました。



新生・京都のサッカーは、比較的狭い局面をパス・コンビネーションで崩してくサッカーです。この試合でのフォーメーションはダブルボランチの3-4-3。マイボールの時に両WBが高い位置を取って、5トップのような形になるのが特徴の一つです。ダブルボランチのうち、パスセンスのあるチョン ウヨンが攻撃的なタスクを担い、秋本がディフェンスラインの前のワイパー役になります。



京都の「5トップ」の特徴は、両WBの動き方です。サイドに張るのではなく、対角線の動きで中へと入ってきます。2シャドーの引いたスペースに入ったり、シャドーの外側を回ってゴール前に切り込んできます。局面での人口密度を上げて、ショートパスで突破を狙うわけです。
サイドアタックは? この試合では左DF福村のオーバーラップが目立ちました。ひょっとしたら、サイドアタックは3バックの両サイドが担うのかもしれません。恐ろしやw。
大木エクストリームアタックとでもいいましょうか、とにかく攻撃的なシステムです。


この試合、東京はCFの久保に対して森重が、シャドーにはボランチが、WBにはSBがマークに付き、今野が余る形で対応します。しかし、前半は京都の動きが良く東京は対応に苦慮、特に左WBの中山に対し右SBに復帰したばかりの徳永がついて行けず、前半の終わり頃には一時的に北斗とサイドを入れ替えています。


京都のシステムは、中盤のプレスが効いている状況だと非常に強力です。反面、重心が前に掛かっているため守備では大きなリスクを背負っています。恐ろしいのは、そのリスクをヘッジするシステムが実装されていないことです(!)。具体的にいうと、WBが最終ラインのフォローをしないのです(!!)。


3バックのチームは通常、相手にボールを保持されると、両WBが下がって5バック的になるか、あるいはどちらかのWBが下がって4バック的になるか、のどちらかの策を取ります。しかし、京都のWBは下がりません。あくまで中盤にポジションを保ち、プレッシングに参加します。このやり方では、プレス網を突破されると、直ちにDFラインが数的不利に陥る可能性があります。



典型的なのが東京の1点目です。北斗のスローインを受けた梶山が、プレスに来たMF3人をいなして草民にパスを送り、右DFの染谷が引きずり出されます。逆サイドのWB中山は下がってこないので、染谷がかわされれば即2バック状態です。加えて、中盤のプレスをかわされたということは、ボランチも置いて行かれたということを意味しています。この場面では、実際に染谷のところを抜かれ、センターDFの森下が梶山と草民の2人を見なければならない状況になり、東京が最初のゴールを奪います。


こういうハイリスク、というより無謀なサッカーをやっていたのがこの時期の京都です(いまはどうなんでしょ)。あくまで攻撃的に振る舞って、1点取られたら2点取り返せばいい、という心づもりだったのかもしれません。


しかし、京都は、J2降格によって昨季擁した屈強なCB群を失っています。さらに、中盤を厚くしたとはいっても個々の守備意識は決して高いとは言えず、球際が甘くて東京の選手に簡単に前を向かせてしまう場面も目立ちましたし、マークの受け渡しもうまくいっていません。この試合で草民がたびたびフリーになったのがその典型です。さらにいわずもがなのセットプレーの守備(略)。


さらに、この試合では、アンカー的な役割を務める秋本が左膝を痛めて交代。交代したのは後半ですが、前半途中から動きが悪くなっています。唯一の安全装置が機能不全に陥ってしまったのです。
結果、京都はここまで7試合で4点しか取れていない東京に4失点してしまうことになるわけです。






前置きが長くなりました。
東京の今シーズン7番目の失点、前半20分、京都の同点弾の場面を振り返ります。

京都はCFの久保が下がってボールをキープし、全体が押し上げて来ています。久保は流れの中で左タッチライン際の引いた位置にいます。代わりに、前線には本来シャドーの中村充が張っています。シャドーの位置にいるのはディエゴと右WBの内藤です。このように、FWの引いたポジションに絞ってくる動きが京都のWBの特徴です。
ダブルボランチの一角・チョン ウヨンが上がってきて攻撃の起点となります。前線の中村充にクサビを打ち込んだのです。中村充をサポートすべく、ディエゴと中山が動き出しています。



クサビを受けた中村充はターンしてドリブルで仕掛けます。高橋がマークに付いてサイドに追い出しにかかっています。このとき、ディエゴが後ろから、サイドから中山が、それぞれ中村充のサポートに走ります。問題は、ディエゴと中山に東京のDFが付いていくためバイタルにスペースができてしまうことです。頼むぞ、梶山!



高橋が中村充をぴったりマークし、パスを出させません。しかし、徳永、森重、北斗の3人がディエゴと中山に引っ張られ、ペナルティエリアの前に大きなスペースが空いています。そこを使おうと久保が動き出します。東京は梶山がスペースをケアできる位置にいます。頼むぞ、梶山!!



この場面を俯瞰するとこんな感じです。



中村充は高橋のディフェンスを受けてもボールをキープし続けます。そこへ京都の若きストライカー・久保が近寄ってきます。それを見つめる梶山・・・見てんじゃねえよ!!!



中村充の落としを受けた久保が、ペナルティエリアに入ったところで強シュートを放ちます。梶山はその横でシュートを見守ります・・・
日頃から大熊さんの厳しい指導を受けている田邊が戻ってきますが時すでに遅し。
ペナルティボックス中央には右WBの内藤が詰めてきています。大木エクストリームアタックの特徴である、WBの中への切り込みです。



久保のシュートは権田がなんとか弾きますが、その場所が悪かった。ゴール前に詰めてきていた内藤の目の前に飛ばしてしまいました。内藤には大竹が付いていたのですが、一瞬反応が遅れて競り負けています。内藤がこれを蹴りこみ、京都が同点に追いつきます。


この試合、前半の京都は良かったのです。大木アタックが機能し、前半のシュート数は6本。悪くありません。システムの利点が端的に現れたのがこのゴールシーンと言えるでしょう。でも、やっぱり梶山だと思います。


後ろを高橋に任せ攻撃に比重を置くといっても、こういうときはしっかり守備に貢献してほしいもの。梶山の傍観者的な態度に、我々はしばしば泣かされています。もちろん、それを上回るほど攻撃で貢献してくれれば帳尻は合うのかもしれませんけど。
大熊さん、草民だけじゃなくて梶山も、そのすてきなお声で指導してくれませんか?


しかし、守備の甘さは京都のほうがはるかに上でした。
30分には大竹のCKから田邊ヘッドで東京が勝ち越し。モーゼの十戒みたいに人垣が割れて、その真ん中にどフリーで草民が飛び込んで来ました。
さらに35分にはDFのクリアミスを大竹が押し込み、東京が京都を突き放します。


京都は後半になるとペースダウン。ポゼッションは出来ても、いわゆる「持たされている」状況で、前線で動く選手にパスを付けられません。逆に、守備意識の低下を突かれて田邊に4点目を決められます。業を煮やした大木監督はドゥトラを投入して反撃に出ますが状況は変わらず、4-1で試合は終了します。



京都は、守備力の点で突出した個がおらず、守備意識も十分ではなく、組織も整わない状況で、基本システムに数的不利を招く仕組みが入ったサッカーをしていました(今はどうなんでしょうね)。これでは低迷するのも当然です。おまけに、重点を置いている攻撃もゲーム途中で原因不明のペースダウンを見せることがしばしば(私が見た試合では)。ようするに、まだまだなんでしょう。
今年はチーム再建の1年目、やることは基礎工事と割り切っているのかもしれません。おそらく、昇格を狙えるだけの力を付けた段階で、守備的な方向に舵を切ってくると思います。



この試合、あれやこれやで、ここまで得点力不足に苦しんでいた東京は一挙に4得点を上げて快勝、我らイナゴも大いに溜飲を下げることになります。
ま、翌週にはそれが勘違いだったって気付くんですけどね。


というわけで、あの一平くんも来場してくれた駒沢での愛媛戦に続きます。