2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その5(第15節ホーム愛媛戦)


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前節、雨の西京極で京都を粉砕。これまでの鬱憤をはらし、地上戦路線への自信も得られ、意気揚々とホームタウンに戻ってきた東京。
第15節は駒沢での一戦、迎えるはイビヴィッツァ・バルバリッチ率いる愛媛FCです。昨季は12勝12分12敗、得点34失点34という冗談のような成績で11位フィニッシュ。戦力を考えれば健闘したと思います。


愛媛FCを一言で言ってしまうと「ザ・J2」。個の力で違いを作り出せる選手の数は少ないですが、全員が最後までよく走り、しぶとく守る。当然球際のしつこさも持ち合わせています。
守備力という点では、先週の京都とは雲泥の差です。こういうしつこいチーム相手に東京のパスワークがどこまで通用するかが、この試合の見所でした。



愛媛FCのフォーメーションは4-3-3(もしくは4-1-4-1)です。アンカー渡邊の前に、杉浦・大山という2人のプレーメーカーを置いています。CFには売り出し中のルーキー小笠原ではなく、高さのあるジョジマールを使ってきました。
上の図を見えればわかるように、愛媛の4-3-3と東京の4-2-3-1とは、お互いのCB一枚を余してきれいにマッチアップが噛み合ってしまいます。
愛媛にとっての利点は、パスの出所である東京のダブルボランチに自軍のインサイド・ハーフをぶつけられることです。オリジナル・フォーメーションが全てではありませんが、誰が誰にプレッシャーをかけるのかが分かりやすい形であることは確かです。加えて、愛媛はディフェンスラインに対しても3トップでプレッシャーをかけて、東京の生命線であるボランチ-DF間のパス交換を寸断しにかかりります。対戦した時期、愛媛はしばらく4-3-3を使っていましたので特に東京対策というわけではないと思いますが。


ただし、マッチアップが噛み合うということは、局面で数的同数(になりやすい)ということであり、一対一で個の力の差が現れやすいということです。これは愛媛FCにとって好ましいことではありません。東京に勝負を挑むためには、もう一工夫必要です。




バルバリッチ監督が仕掛けてきた手は、関根・前野の両SBに高い位置をとらせることです。アンカーの渡辺を最終ラインに下げて3バック気味にし、SBを押し出します。とくにSBの関根が積極的な攻め上がりを見せます。ある局面だけをとれば、右肩上がりの3-4-3に見えるかたちです。もう一つの策は、斉藤学・石井の両ウィングが中に絞ってCB・SB・ボランチの間でシャドー的な浮いたポジショニングを取ったこと。SBを見るのか、シャドーに付くのか、東京のサイドバックは決断を強いられます。実際、マークの受け渡しにギクシャクしたところが見受けられました。そして、愛媛のサイドバック、特に右の関根への対応が遅れ、サイドを使われてピンチを招くことになってしまいます。東京のサイドMF・大竹と田邊は前に残るか下がって相手のSBを見るかの判断が悪く、とくに田邊は関根をフリーにしてしまう場面が目立ちました。


愛媛は流れの中で4-3-3から3-4-3に形を変化させていきます。攻撃では東京の守りを混乱させることに成功しましたが、攻め上がったサイドバックの裏のスペースのケアという問題はのこります。現に、羽生が何度か3バックのサイドに入り込んでボールを受け、攻撃の起点となっています。愛媛は、左SBの前野がボランチのラインにとどまってバランスをとり、ピンチになれば両サイドバックとも素早く帰陣することで守備の破綻を防いでいました。


もうひとつ、愛媛の守備が破綻しなかった要因として、ボランチ-DFライン間のパス交換を妨害された東京のパフォーマンスが極端に落ちたことがあげられます。パスを受けようと動くのは羽生だけ、あとは足元足元で、愛媛のプレッシングの餌食となります。SBの裏をつける位置にいるはずの大竹と田邊にはいいパスが出てきません。1ヶ月後に、東京は流動的なつなぐサッカーでJ2を席巻しはじめますが、このときはちょっとプレッシャーが強くなったとたんに停滞する程度の脆弱なものでしかなかったのです。


この試合、シュート数は東京8本、愛媛7本でほぼ互角。しかし、アタッキングサードまでボールを運んでシュートにつながりそうな場面を作った回数では大きな差ができています。"攻撃機会"とでもいいましょうか、最後のパスやクロスが前線の選手に届けばシュートチャンスになった、という機会の数を比べて見ましょう。あ、データは酔っ払いのメモですから、信じられないって人はそれでもいいです。


東京の"攻撃機会"はゲーム通じて14回。そのうち速攻が2回、遅攻が8回、セットプレーが4回です。つなぐスタイルなので遅攻が多いのは納得なんですが、遅攻の内訳は合計8回中6回がクロス。つまり、中を崩せずにブロックの外からボールを入れる形が多かったということです。クロス自体が悪いといってるわけではありません。ワンツーなどのコンビネーションやスルーパスで裏を取る、というかたちではチャンスにならなかったということです。


対する愛媛の"攻撃機会"は21回に達しています。いかにいい加減な手元メモでも、それなりに有意な結果じゃないでしょうか(と酔っ払いは主張する)。その内訳を見ると、遅攻が12回と過半に達しています。実際、この試合の愛媛はボールを保持している時間が長かったのです。ポゼッション率はひょっとして東京より高かったのではないでしょうか。ボールを保持できているから、SBを押し上げる時間も稼げたのです。おもしろいのは前半と後半で攻め方を変えていることで、前半は繋いで最後はSBからクロスという形が多かった。遅攻からクロスというパターンが、前半の11回の"攻撃機会"中6回を占めています。一方、後半はロングボールを多用してきます。後半の"攻撃機会"10回のうち、半分の5回がロングボールからの展開です。もっとも、後半だって愛媛は繋ごうとしていました。でもできなかったのです。ここでいう"攻撃機会"とは攻めながらシュートにつなげられなかった回数を示しています。それが21回あったということです。それだけ、愛媛は最後のところの精度が低かったわけです。


ということで、駒沢での一戦は、「停滞」の一語で表現できる試合となりました。今シーズンのワーストゲーム候補に入る内容です。ま、引き分けてるからワーストにはならないと思うけど。




前置きが長くなりました。失点シーンのレビューを始めます。
前半、高橋が裏にいれたロブを草民がダイレクトボーレでたたき込んで先制した東京ですが、その後は停滞。後半62分、愛媛に同点弾を食らいます。


その始まりは愛媛のポゼッションからでした。

ボールを保持し、後方で繋ぐ愛媛に対し、セザーがプレッシャーをかけます。愛媛はDFラインで繋ぐことを放棄し、キーパーに戻します。いや、そんなに厳しく行ってるわけではないんだけど・・・・この試合では、東京が前からプレスをかける場面は少なく、基本的には自陣にブロックを築いて愛媛の攻撃を待ち構えていました。



下げたボールを愛媛のGK・川北が前方にフィードします。川北のフィードが特に良かったという印象はないのですが、このキックはちょうどいいところに飛びます・・・



ボールがGKへ下げられたとき、定石どおり東京はDFラインを押し上げました。このため、川北のフィードに対しては自陣に戻りながらの対応をなります。愛媛は前線にジョジマール、石井、斎藤の3人。両翼にSBの関根・前野が張っていて、3-4-3的な形になっていたのがわかります。しかし、この場面では愛媛の両SBは前線のサポートに行きません。むしろ、自陣に戻ろうとしています。ロングボールが跳ね返され、東京のカウンターになった場合にそなえてポジションを取ろうとしているのでしょう。こういうところは前回紹介した京都とは違っていて、リスク管理をしてきます。



↑このボールをジョジマールが落とします。戻りながらの対応となったノースは競り勝てませんでした。斎藤学が落としを受けてキープします。石井はそのまま前進し、斎藤学からのパスを待っています。東京のDF3人がペナルティエリアの手前を固めつつあります。誰が石井をマークするのかな。



↑東京のダブルボランチとノースが斎藤学を囲んで潰そうとしますが、その寸前に斎藤学がスルーパスを出します。アタッキングサードでは東京の守備陣が6対3の数的優位なのですが、このパスで3人が無力化され、3対2の関係になりました。さすがに斎藤学はうまいです。石井が裏に動いていますが、パスが届くかどうか。この時点で石井は森重の背後に入っていますので、マークするのは北斗の仕事になります。森重はジョジマールを警戒しつつ、ペナルティアーク付近のスペースを埋めています。



斎藤学のイメージはペナルティースポットあたりで裏に走った石井が受けてシュート、というものだったように思えますが、このパスは森重がカットします。パスに追いつけないとみた石井は走るのをやめてペナルティエリアの外にとどまっています。ここで動いたのがジョジマールです。斎藤のパスをクリアしようとした森重に詰めます。森重はまさにクリアを蹴ろうとした瞬間にチャージされ、ボールがこぼれます。ルーズボールを石井が拾いそうな雰囲気ですが、近くには北斗がいる。大丈夫・・・



チャージをかけたジョジマールはそのままオフサイドポジションに流れます。こぼれ球に対して石井がシュート体勢に入ります。森重はジョジマールと交錯したときに転んでいてまだリカバリーの途中。ここはひとつ、北斗にがんばってもらって・・・・あれ、スペースを埋めようとしているぞ? 裏に走る選手なんて誰もいないのに・・・というわけで、石井に対応できるはずの北斗は自ら遊兵化したかっこうです。石井がドリブルかなにかで仕掛けてくると思ったのかもしれませんが。



この先は、石井をほめるしかありません。見事なループシュートがゴールを目指します。ジャンプしてブロックを試みた森重の足は届きません。



ボールはきれいな弧を描いて権田の頭上を越えていきます・・・・



ちゅどーん・・・


この試合では、両SBを押し出し、中は1トップ2シャドー的な布陣でくる愛媛に対し、東京のマークが終始混乱していました。後半、田邊・大竹に守備を意識させることでSBのオーバーラップをある程度押さえることに成功しましたが、2シャドーに対するマークはぼやけたままでした。誰がチャレンジして、誰がカバーするか、はっきりしないままだったのです。そこを突かれた失点でした。


この後、東京は石川、谷澤、椋原とスペースに飛び出す動きができる選手を投入し、チームの活力を取り戻そうとします。実際、交代選手の働きで攻撃はやや活性化しますが、実を結ばず。駒沢での一戦は停滞の中、ドローで幕を閉じます。


東京を停滞に追い込んだのは愛媛FCのファイトです。最後までボールを追い、球際で粘り続けました。愛媛の同点弾も、ジョジマールが詰めたことがきっかけになりました。東京の後方でのパス交換にプレッシャーをかけやすいというフォーメーション的な相性もありましたが、両SBを押し上げて勝負してきたバルバリッチ監督の勇気も賞賛すべきでしょう。ただでさえ走れるチームが、前の枚数を増やしてプレッシャーをかけてきたのです。始めたばかりの地上戦モードが停滞に陥ったのも必然です。ボールを奪った後の精度が低く、斎藤学のようなテクニックのある選手にボールを付けられなかったせいもあり、愛媛の攻撃は実を結びませんでした。しかし、彼らは多くの時間でボールを保持し、自分たち主体にプレーしようとしていたことは事実です。


ジェイド・ノースは70分に椋原との交代でピッチを去ることになりますが、個々のプレーはそつのない内容でした。普通に競り合って勝ったり負けたりして、集中力を保ってプレーしていた。失点シーンは自陣に戻りながらの対応となったため、ヘディングで強く当たれなかったのが痛かったです。出場経験が乏しいため(京都戦のアディショナルタイムに出ただけ)、まわりとの連携があまり良くないのは仕方がないでしょう。積極的に前に出て潰す今野と、ポジションを維持して相手に備えるノース、というプレースタイルの違いも連携を取りにくくした原因かもしれません。このまま出場経験を増やしていけば、地味ながら計算できる戦力になると感じました(このあと、一度オーストラリアに帰っちゃうんですけどね)。



東京はこの試合でひとつの教訓を得ます。
それは、ポゼッション率を上げて相手の攻撃機会を減らさない限り、失点のリスクは減らないということです。この試合、東京はボールを奪われると引いてブロックを作っていました。しかし、東京には跳ね返し型のCBがいません。空中戦に強いFWを投入された場合、どうしても一定確率で競り負け、そこから決定機を作られます。そのリスクを減らすためには、できるだけ早期にボールを奪い、なおかつそれを保持し続けるしかありません。


それがさっそく実を結んだのは次節のアウェイ熊本戦です。豪雨の中、高木琢也の巨人兵軍団のパワープレーを受けながらもセザーの1点を守りきった試合でした。その試合で目についたのは、熊本のボランチとバックラインに猛烈なプレッシャーをかける羽生、田邊、セザーの姿でした。彼らが前からボールを追うことで、熊本の攻撃機会と精度を削ることに成功したのです。


東京はよろめきながらも、高い位置でボール奪取を狙うという方向で守備意識の統一を図っていきます。ただし、そのやりかたには一つトラップがあります。前でのプレスがかからなかった場合、裏のスペースをどうやってケアするかということです。


というわけで、第17節・2失点したアウェイ水戸戦に続きます。