Jユースカップ予選リーグAグループ第6節 FC東京 2 - 2 コンサドーレ札幌(観戦95試合目)

我らが心のホーム、江戸川競技場で14時キックオフの試合である。
予選グループの順位はここを参照↓

http://www.j-league.or.jp/youth/2004game.html

東京は市原/札幌/横浜FC各ユースと同居している。決勝トーナメントに進めるのはA〜F各グループの首位7チームおよび2位チームのうち成績上位の5チームである。東京・市原・札幌が実力伯仲で、横浜FCはここまでわずか1得点、得失点差なんと-21でダントツの最下位。FC東京U-18は札幌に勝ち点差1を付けて2位にいるが、札幌は勝利が濃厚な横浜FC戦を残しており、実質は勝ち点差2をリードされているといっていい。つまりこの試合に勝たなければ、2位を確保できず、事実上の予選敗退となってしまう。


薄暗い曇り空。冬の始まりを思わせる気温。風がないのがせめてもの救いか。
大事な一戦とあって、スタンドには父兄や選手の友人たちばかりでなく、熱心なファンの姿が多い。一方の札幌も、10名ほどのゴール裏サポーター集団風のおじさんたちがいる。これが噂に聞く「ビョーキのひとたち」なのであろうか(ユースの応援に全国行脚する物好き、もとえ熱心な人たち)。この人たち、ユルネバを唱っている時に「熊出没注意」の黄色い暖簾をホーム側まで来て掲げていた。大熊さんはいないよ。


東京は4-4-2フォーメーション。

   15樋口 20永露
 36常磐       7福田
   5染谷   8村田
14宮崎 2伊藤 4西室(c) 11福島
     21権田

村田翔は攻撃時に上がり目のポジションを取る。


札幌も4-4-2。こんな感じ↓

    10石井    9三浦
       19長沼
  11野田       14藤田
       33大野
24廣中 6三上(c)  20久松 12小田桐
       1岩田

長沼がトップ下のようなポジションに位置する事が多いため、こんな表記にしてみた。


札幌の攻撃はトップ下の長沼を起点として、2トップのコンビネーションからの展開や、サイドからの崩しを狙っている。とくに左MF野田のサポートを受けて左SB廣中がオーバーラップから放つ正確なクロスと、右MF藤田のスピードあふれる単独突破は脅威となっていた。


東京のやり方はトップチームに良く似ている。相手ボールホルダーに対してアグレッシブにタックルし、ホールを捕ったらスピーディーなサイド攻撃を指向する。


いつもの事だが江戸川のピッチ状態は悪い(アメフトが開催されることが多いせいか、いつもボコボコ)。とくにホーム側はデコボコに加えて滑りやすいようで、東京の選手たちが足を取られるシーンが目立った。


試合は札幌優勢でスタートする。高めのライン設定で前から激しくプレッシャーをかける。札幌のプレスが早く、東京はボールを持ってもなかなかパスを出せない。仕方なくバックラインに戻すと、札幌2トップが激しくチェイシングしてくる。札幌の各選手は球際にも強いため、完全に東京を押し込む。


先制点はやはり札幌。5分、中盤でパスをカットした札幌左MF野田が、ライン際のスペースにオーバーラップしてきた廣中にパス。廣中がドリブルで持ち上がり、対応した福島を振り切って折り返す。3人ぐらいの選手が東京ゴール前に飛び込んできたが、がら空きのファーサイドに外側から入ってきた藤田が決めて札幌が先制する。


中盤でパスがつなげず、かろうじてサイドに展開しても素早いプレッシャーの前にいい形を作れない東京は、早いタイミングで2トップに裏を取らせることによって状況を打開しようとする。8分、ロングパスにうまいタイミングで抜け出した樋口の左足シュートはゴール右上に外れる。


しかし運動量豊富な札幌は9分、FW三浦が東京バックラインのパスをカットし、そのまま持ち込んで走り込んだ長沼にクロスを合わせるが、フリーで放ったシュートはバーを越える。


あいかわらず押し込まれている東京はカウンターに活路を見いだす。19分、札幌CKをキャッチしたGK権田のパントキックは浮き球ヘディング合戦になるが、永露が頭で裏に流したボールに右MF福田が反応し、同点ゴールを叩き込む。


同点のあとも、しばらく札幌の攻勢が続くが、東京はキーパー権田の攻守もあってこの時間帯を耐えた。
この権田はU-16代表メンバー。正確なキャッチング・的確なポジショニングを誇り、飛び出しの判断にも迷いがない。そして特筆すべきはそのキック力。パントキックで80m級のライナーを放つのである。ただし、キックが時々アレなのが誰かに似ている(笑)。要は不安定で、正確なときは正確なのだが、直接タッチを割ってしまったり、蹴るときに転んだり、ハイパントになったりする。小平にいって、一緒に練習すれば?


25分過ぎには、さすがに札幌のラッシュも一段落し、東京も中盤で攻撃を組み立てられるようになる。
起点となるのは村田。1.5列目付近を広範囲に動き回り、ボールをさばく。サイドに流れてクロスを上げたり、クロスに反応してゴール前に飛び出してきたりと、まるでケリーみたいなプレースタイルをみせる。
24分には、村田の浮き球パスを永露が頭で裏へ流し、これに樋口が走り込むがシュートを打てず。
27分にはドリブルでマーカーを交わしながら左サイドゴールライン際まで持ち込み、ここからフェイントでDF二人を交わして中へ切れ込み、マイナスのパスを送る。これに永露が合わせるが、シュートは枠を捉えられない。
33分には村田の右CK。ちょうど頭ぐらいの高さの速いストレートボールがエリアを横切るが誰も合わせられなかった。
34分にはゴール前の混戦から樋口が放ったシュートをなんと福田がブロック・・・
37分には同じく混戦から今度は村田が狙うが、シュートはバーの上へ。


ペースダウンしたとはいえ、札幌も手をこまねいている訳ではなく、カウンター気味の攻撃で反撃する。左サイドではあいかわらず廣中がタイミングの良いオーバーラップを見せ、右サイドでは藤田が高速ドリブルでチャンスをつくる。とくに藤田の快足ぶりは脅威そのもので、フリーでドリブルさせるとマッチアップする宮崎がまったく追いつけないのだ。藤田は正確なプレースキックも持っており、36分にはFKで東京ゴールを脅かす。


39分、FKの壁に入った東京右MF福田が警告を受ける。どうも、きちんと離れなかったか早く動いたかしたらしい。このFKを藤田が蹴り、それに長沼が飛び込むがわずかに合わず。


そして43分、事件は起こった。競り合いの中、札幌の選手が倒れ、ペナルティエリアの左横、ゴールまで20mほどの位置でFKを得る。単に転んでしまっただけのようにも見え、先ほどから基準のよくわからないファウル判定にイライラをため込んでいたホーム側の観客は一斉にブーイング(久しぶりの「4級審判」というヤジまで出た)。壁は3人(だったと思う)。福田も入っている。藤田(だったと思う)のキックはゴール右上にそれていくが、ここでなぜか笛がなり、蹴り直しが命ぜられる。そして福田に提示される、2枚目のイエローカード
抗議する選手たち。激昂する観客。そして福田は呆然とし、天を仰ぎ、そして顔を覆う。


この警告の理由だが、壁は規定の距離をとらせていたし、手に当たったようにも見えなかったので、おそらく動きだしが早すぎて、キッカーが蹴る前にボールに近づくかなにかしてしまったと思われるのだが・・・。ここは厳重注意ということで収めて欲しかった。ルールを運用する上でもっとも大事なことは「柔軟性」なのだから(だから難しいんだけど)。


福田はチームメイトやコーチに慰められ、泣きながらピッチを去る。
そしてここから東京の猛攻が始まった。残り時間わずかではあったが、素早いパス回しと積極的なフリーラン、そして相手と正対したら迷わず勝負にでて、札幌守備陣を混乱に陥れる。そしてロスタイム、村田がFW陣を伴ってゴール前に進出、札幌もDF陣とボランチが集まり、混戦になる。そのさなかルーズボールがFW樋口の前にこぼれる。樋口がボールを収めてから反転してシュート、これが人垣の間隙を抜ける。ブラインドになったのか、GKの反応が一瞬遅れ(誰かに当たって微妙にコースが変わったようにも見えたが)、ボールはゴールに吸い込まれ、10人の東京が逆転する。


前半が終了し引き上げてくる選手たちを、退場になり一度はロッカーに下がった福田がトラックまで出てきて迎える。一人一人と手を握る福田に惜しみない拍手が送られる。


雲が厚くなり、午後3時だというのに点灯されるなか、後半が開始される。早めにピッチに出てきた札幌に対し、東京イレブンはぎりぎりまでロッカールームの中。長島監督の檄が飛んでいるのか、それとも綿密な指示が出されているのか。


後半開始時に、東京は殊勲の15樋口に代わり9佐藤竜也、左MF常磐に代えて30中野を投入する。フォーメーションは↓こんな感じ。

      9佐藤竜

20永露 30中野 5染谷 8村田

14宮崎 2伊藤 4西室(c) 11福島

      21権田

フォーメーションは佐藤が1トップのフラット4-4-1。30中野がCMFに入り、FWの永露が左サイド、ボランチ村田が右サイドに移る。札幌のゴールキックのとき、中盤とDFラインが等間隔できれいに2列に並ぶ様は、まるでアルディージャモンテディオのよう(笑)。
だが、これは効果的な手である。なにしろ8人がある程度自陣に引いて、コンパクトな陣形を保って等間隔で布陣ポジショニングし、待ちかまえているのだ。そのままでは全くスペースがなく、パスを
出せないのである。札幌はFWを中盤と最終ラインの間に引かせてからクサビのパスを入れるが、東京はMFとDFでサンドイッチにしてボールを奪い、カウンターに結びつける。


52分、札幌FW三浦からボールを奪った永露がドリブルで前進、中に入り込んでDFを引きつけてから裏へ走る佐藤竜にスルーパスを送る。これが通って佐藤がキーパーと一対一になるが、果敢に飛び出した札幌GK岩田がシュートを体で阻止する。


その後もポゼッションで上回る札幌に対し、カウンターを狙う東京という図式が続くが、ゲームをコントロールしているのは東京だった。
とにかくみんな落ち着いている。札幌に攻め込まれたとき、一人が責任を持って止めるケースと複数で守る場合の判断が実に適切だった。なんとしても一人で止めなければならない場面では、相手をよく見て、ここぞというタイミングでタックルをかける。少し余裕があるときは闇雲に飛び込まず、ディレイをかけて味方のサポートを待ち、複数でアタックする。判定が不安定なことも見切っていて、たとえ誰かが倒れても、集中力もプレーも切らず、ただひたすらにボールを追う。
セットプレーに対してはキーパー権田があいかわらずの好セーブを見せる。
そしてボールを奪ったらワントップを務める佐藤にいったんボールを預ける。佐藤は技巧的かつねばり強いキープでマークを引きつけつつ味方の上がりを引き出す。


逆に札幌は焦りが出てきたのか、プレーが雑になり62分にはカウンターに移った佐藤竜を倒して札幌CB久松が警告を受ける。63分、浮き球のパスで裏に抜け出た長沼がシュートを打つが、これはバーに当たってしまう。続く65分にはFW三浦が、ボールを奪ってカウンターに移ろうとした選手を倒してイエローをもらう。


その直後、東京は決定的チャンスを得る。オーバーラップした左SB宮崎が素晴らしい切り返しで正対したDFを置き去りにして中へ切れ込み、右足シュートを放つ。が、これはポスト直撃!


手詰まりになった札幌は70分、FW9三浦を下げ2真田を投入、フォーメーションを変更する。↓こんな感じの3-5-2。

   10石井  14藤田
24廣中  19長沼  12小田桐
   11野田  33大野
 6三上(c) 2真田  20久松
      1岩田

交替で入った2真田が3バックの中央へ、快足藤田をトップに、再三いいオーバーラップを見せていた24廣中をWBへ上げる。突破力のある選手のポジションを前目にし、攻撃の枚数を増やした。


この策が成功して札幌の攻撃が活性化する。スペースがなくとも個人の突破力を生かしてどんどん勝負をいどみ、次第に札幌が押し始める。
10人の東京は疲れが目立ち始め、単純なスピード勝負に持ち込まれると後手を踏む場面が増えてくる。76分には札幌のミドルを権田がキャッチ。続いて染谷のトラップミスをかっさらった長沼がシュートを放つ。


しかし、東京の選手たちは冷静だった。キャプテン西室が大声で味方を鼓舞し、スピードで振り切られても他の選手が必死にカバーリングに走る。次第に焦りが出てきた札幌の性急なパスを的確なポジショニングでインターセプトすると、単にクリアするのではなく、テクニックを生かして(みんなうまいんだ、これが)チェックに来る札幌の選手をかわし、じわじわとドリブルで前進、できるだけキープして時間を使う。タッチライン際で囲まれたときも、サポートの入り方や競り合いのときの体の使い方がうまく、ちゃんとマイボールのスローインをとる。佐藤竜などGKが前に出ているのを見て、自陣内からロングシュートを放っていた。


このまま逃げ切れるかと思ったのだが、やはりそううまくは行かなかった。
81分、東京はカウンターのチャンスを得る。奪ったボールを素早く左サイドのフリーの選手(誰だか覚えていない・・・)にパス、パスを受けた選手はそのままドリブルでしだいに中に上がっていく。
札幌ディフェンスは正面からDF2枚と左横から一枚が詰めてくるが、その間のギャップに斜めの入り込もうとしていた佐藤竜にスルーパスが出る。しかし、これがミスパスとなり、左横にいたDFにカットされてしまう。


そこから始まる札幌の逆カウンター。東京から見た左サイドに流れていた藤田にボールが渡る。東京左サイドのスペースはがら空きで、ラインが中途半端に上がっていたため後方にもスペースがあった。対応するDFは一人だけ(これも誰だか覚えていない・・・直後の出来事で頭が真っ白になってしまったので・・・)。快足を生かして突進する藤田に必死で追いすがるが追いつけず、エリア内まで切り込んで打った藤田のシュートはゴール左上に突き刺さる。東京の一瞬の隙をついて、札幌が同点に追いついた。


このあと、東京は、CB伊藤を前線に上げてパワープレーに出る。86分には永露を下げ3林を投入、林を左SBに位置させ、攻撃力のある福島のポジションを一つ前に上げる。しかし、必死に攻めるがなかなかシュートが打てない。終了間際にはエリアすぐ外でFKを得るが、宮崎の蹴ったボールは誰もいない逆サイドへ流れてしまう。


ロスタイム、エリア内で伊藤が頭で流したボールに佐藤竜が走り込むが、届かず。このときDFと交錯した佐藤が転倒するが、笛はならなかった。
2分のロスタイムが過ぎ、試合が終わった。これで決勝トーナメント進出がほぼ絶望になり、実質的に彼らのシーズンが終わった。
3年生にとっては、これが最後の試合になった。


伊藤が人目もはばからず、号泣していた。こらえていた他の選手たちも、スタンドへの挨拶が終わると次々と泣き出した。3年生の佐藤竜がトラックにへたり込んでうつむいたまま動かない。スタンドで応援していたチームメートも、手すりに目を赤くして手すりにもたれ、ただただピッチを眺めていた。


選手の挨拶が終わっても観客はほとんど帰らず、拍手を送り続けていた。多くの者は、選手たちがスタンド下に引っ込んでもなお、しばらくその場を去ろうとはしなかった。足元から、誰かの泣き声が聞こえた。


札幌は、技術もあり、球際にも強く、特徴を持った選手たちがいる、強いチームだった。聞けば、今日のメンバーの中にはトップ昇格が決まっている選手たちが何人かいるという。彼らが、コンサドーレ再建の礎にならんことを。


東京U-18も本当にいいチームだった。テクニックもフィジカルも戦術眼も持ち合わせている、高いレベルでバランスがとれた選手たちの集団だった。そして、やっているサッカーがトップチームにそっくりだった。試合の入り方に難があるところも、GKのキックが時にあらぬ方向に飛ぶところも、DFがちょっとファンタジーしちゃうところも、決定力がいまいちなところも、味方のシュートをブロックしてしまうところも、そして10人になったとき、決してあきらめずにピッチを去った仲間のために戦うところも。


帰り道、何を聞こうかと迷ったが、やっぱりYou'll never walk aloneにした。
イアフォンから流れる歌詞。


  When you walk through a storm...


この日、出場したメンバーのうち、1・2年生(1987-88年生まれ)は、キーパー権田、林、号泣していた伊藤、攻撃の中核だった村田、交代で入ってきた中野、常磐、FWの永露と樋口。この世代にはワールドユース予選に出場したDF吉本もいる。来年も見に行くからね。


  Though your dreams be tossed and blown...


3年生(1986年生まれ)はキャプテン西室、ボランチ染谷、宮崎と福島のSBコンビ、佐藤竜也、そして無念の退場となった福田。
でも、彼らには歩き続けて欲しい。これからもサッカーを続けて欲しい。そしてどこかのサッカー場でまた会いたい。
本当にそう願った。


街路樹が色づき始めていた。