2011年シーズン FC東京の全失点レビュー その6(第18節アウェイ水戸戦)


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第15節・駒沢でのホームゲームでは、停滞したサッカーで勝ち点1にとどまった東京ですが、続く第16節のアウェイ熊本戦では苦戦しながらも1-0で勝利。味スタに徳島を迎えた第17節は、また1得点にとどまりながらもまずまずの内容で勝ち点3をゲット。順位を4位まで上げ、3連勝を目指してケーズデンキスタジアムに乗り込みます。
そういえば、この頃は「2点目を取ることが課題」でしたね。


震災の被害を受けたメインスタンドが修理中のスタジアム。もともとボコボコなのに加え試合前に降った雨の影響もあり、選手たちは苦労していました。


相手は闘将・柱谷哲二率いる水戸ホーリーホック鈴木隆行の加入が決まり、長期離脱していた吉原の復帰も見えてきて、意気上がる若者集団が相手です。

フォーメーションは4-4-2。
水戸のサッカーの特徴は、攻守の切り替えの早さと前線への果敢な飛び出しです。前線に飛び出してくる選手の数と速さが印象的でした。マイボールになると複数の選手が猛ダッシュでボールホルダーを追い越して行きます。東京の繋ぎながら全体を押し上げていくサッカーには、はまりやすいスタイルです。





水戸のアタックの特徴を模式的に表してみました。
パターンは、ボール奪取→クサビ→サポート→追い越し、です。
タテ→戻し→ウラ→クロス(もしくはシュート)、とも言えます。
上の図でいうと、ボランチのところで奪ってFWにクサビを入れます(橙点線:村田から遠藤へ)。このとき、中盤の選手がダッシュでFWに寄っていき落としを受けます(白点線:遠藤から西岡へ)。同時に、複数の選手がクサビを受けた選手を追い越して、裏のスペースへと走り出します。落としを受けた選手(村田か西岡の場合が多い)には、サイドもしくはバイタルへ複数のパスコースがあります(赤点線)。さらにSBおよびボランチも攻め上がり、攻撃に厚みを加えます。


複数の選手が裏へ飛び出してくるため、東京はマークに付ききれず、後手を踏む場面が多く見られました。とくに高い位置を取るSBの裏を突かれて鋭いカウンターを受けることが多く、守備陣が駆け戻ってでかろうじて止める場面が目立ちます。


運動量が要求されるサッカーであり、守備の負担も相まって前半の終わり頃には水戸の選手に疲れが見え始めますが、やりたいことをできていたといえるでしょう。


東京のほうは、パスコース確保の動き自体はできていて、以前に比べればずっとスムーズにパスがつながります。しかし、相手にとって危険なスペースに動く選手は羽生ぐらい。アタッキングサードまでボールを運べても、そこから先は個人能力で強引に打開を計る場面が目立ち、手詰まり感が漂います。水戸も最後を決めきるには技術と力がまだまだという感じで、結局、前半はスコアレスで折り返し。


しかし、執拗にボールを回して水戸の体力と集中力をそいでいったことが後半に実りました。東京は後半立ち上がりからラッシュをかけ、水戸を完全に押し込んでボールを回し、相手のファウルを誘ってゴール前でFKゲット。これを森重が直接沈めます(54分)。さらに東京は攻め続け、60分、水戸の左SB・岡田がペナルティエリア内で北斗を倒してPKゲット。キッカー梶山がしっかり決めて課題であった2点目をゲットします。
相手を押し込んでボールを回し続け、流れの中でシュートが決まればよし、そうでなくてもファウルを誘ってセットプレーもしくはPKで一撃、という、その後よく見るようになる光景です。。また、前半はじっくりパスを回して体力を消耗させ、後半で足の止まった相手を仕留める、という「なぶり殺し」パターンが出始めたのがこの試合でした。


しかし、水戸も反撃に出ます。起点となったのは1点目となったFKを森重が蹴る直前、常磐に代えてFWに投入されたロメロ フランクです。キープ力があり、そのテクニックで独力での局面打開もできるフランクが前線での起点となり、疲れのため前線へ飛び出す勢いが鈍ってきた水戸の攻撃に貴重なタメを与えます。


水戸の1点目となった保崎のPKも、フランクを起点とした流れからのものでした。



イーブンボールを巡る争いで、フランクが梶山に競り勝ってボールを奪います。フランクは寄ってきた高橋をかわして左サイド方向に持ち出します。



しかし高橋はあきらめずに追走、フランクへのタックルを成功させます。しかし、こぼれ球を島田が収めてタメを作ります。村田とフランクが島田に近寄ってきます。高橋はボールホルダーへのマークを谷澤に任せ、バイタルのスペースを埋めに下がります。



島田が近寄ってきた村田にボールを渡し、ダッシュします。このとき、フランクが村田を追い越していきます。水戸の攻撃、その典型的パターンです。高橋が村田を抑えようと前進しますが、飛び出した後のスペースを島田に使われ、クロスを上げられます。それにしても、梶山がジョグしている場面が目立つなあ・・・



島田のクロスはシュートに結びつかず、最終的には高橋が大きくクリアしますが、それを拾って水戸が再攻撃をかけます。西岡がクリアボールをヘディングで保崎に送ります。



保崎が島田とのワンツーで突破をかけます。徳永は島田に付こうとしますが、ワンツーでかわされます。保崎は攻め残っていた村田にボールをあずけて、さらに前進します。村田には高橋が行きますが・・・



高橋が詰める直前に村田が保崎へリターンを返します。再びのワンツーで保崎がペナルティエリアに切り込んでいきます。東京は羽生、谷澤、徳永、高橋の4人が抜かれたことになるか・・・と思われましたが、高橋が反転して保崎を追います。



高橋は保崎に追いつき、ペナルティエリアに入るところでタックルをかけます。このとき、バックスタンドアウェイ側で見てたんですが、ボールに行ったようにみえました。しかし・・・



これがPK判定になりました。高橋は憤慨して判定に異議を唱えますが、警告を受けてしまいます。



スローで見ると、やっぱり高橋はボールに行ってますね。保崎はボールを取られたあと、もつれて転んだだけです。こりゃ、怒るわ。
この試合で、高橋はコーナーキックやファウルの判定でもエキサイトする場面がありました。どうも、この主審とは相性が悪いようです。
この場面ではPKを取られてしまいましたが、高橋秀人の守備は冴えていました。サイドバックが高い位置をとり、センターバックまで中盤に出てくるような状況の中、後方の広いスペースのカバーリングを行っています。高橋の「お掃除」が東京の生命線でした。



PKキッカーは保崎。意表をついて真ん中へ蹴ってきます。これを塩田が一度は左手一本で止めますが、こぼれ球を保崎が押し込んで水戸が一点返します。66分のことでした。しっかし、流経大の先輩にそんなことして、大丈夫か保崎www


判定はともかくとして、PKに至る水戸のカウンターアタックは見事でした。



このPKを足がかりに同点に追いつきたい水戸でしたが、71分には2枚目のイエローで岡田が退場。10人になった水戸に対し、東京は石川を投入。79分、その石川が梶山のパスから裏に抜け出し今シーズン初ゴール。最初のトラップといい、コースを狙ったシュートといい、見事でした。これで勝負あったかに思われましたが、水戸は果敢に反撃を試みます。



それが実を結んだのはアディショナルタイム直前、89分のことでした。

この時間帯、東京はすでに試合をクローズしにかかっています。無理に攻めず、後方でゆったりとパスを繋ぐ東京。そこに1人少ない水戸が果敢にプレスをかけます。岡田の退場後、水戸は左MFの島田をDFラインに下げて4-3-2の形。ボールを後方に戻そうとした今野に対し、2トップを組むフランクと神村(82分に投入)の2人がプレスをかけたのです。フランクが当たりに行き、こぼれ球を神村が拾います。フランクはテクニックだけでなく、競り合いにも強い。



神村が大きくサイドを変えます。左サイドのオープンスペースに攻め上がってきたのはSBの位置に下がっていた島田です。島田は攻め上がった勢いのまま、クロスを入れます。



島田のクロスは森重がクリアします。しかし・・・・



そのクリアボールを拾ったのは村田でした。対応した羽生をフェイントでかわしてシュート体勢に入ります。この時間帯、羽生はヨレヨレ。ずっと走り回っていたのですから無理もありません。大熊監督もわかっていて、ピッチ脇では交代のため大竹がスタンバイしていましたが、その直前のプレーでした。



ペナルティエリア手前で村田がシュート!



ちゅどーん。塩田は一歩も動けませんでした。これは村田をほめるしかありません。さすが、東京U-18出身の選手です(中大オヤジに怒られるかもしれないw)。


勝負の綾は、フランク投入のタイミングだったと思います。前半から運動量が要求されるサッカーで東京と張り合い、チームが少し疲れてきたらタメを作れるプレーヤーを投入し、勝負をかける。闘将はそういう絵を描いていたのではないでしょうか。
実際は、東京にFKを与えることになったファウルでプレーが途切れたときにフランクが入り、ゲーム再開のFKを森重が決めました。この先制点で東京はだいぶ楽になりましたが、もう少し早く、両者無得点の段階でフランクが投入されていたら、もっと難しい試合になったと思います。
あれだけやれるフランクがなぜ交代出場だったのかというと、この時期は90分やれるだけのスタミナがなかったからのようです。


水戸は敢闘しました。粘り強い守備から鋭いカウンターを繰り出し、東京を苦しめました。しかし、最後のところで決定的なプレーはできなかった。カウンターでサイドやバイタルのスペースに侵入しながらも、シュートに結びつけられた回数は少なかった。最終局面での力がまだ足りないのです。そこを補うため、鈴木隆行を呼んだのだと思います。


この試合で、カウンターを浴びながらも3点を奪い、東京は勝ちきりました。ただ、攻撃も守備もまだ「チューニング」が足りない印象の試合でした。


攻撃面では、ボールポゼッションはできるものの、まだ相手にとって危険なスペースに動き出す選手が少ない。詰まって個人能力で強引に打開しようとする場面がまだ目立ちます。


守備面では、前から奪いに行こうとするあまりバランスを欠く場面が多く見られました。ボールに行きすぎて、後ろのスペースのケアがおろそかになる場面が多発したのです。
この問題は、選手たちの連携が深まるにつれ解決されて行きます。


この試合で3連勝を達成した東京は、以後も上り調子でリーグ戦を戦っていきます。次節のアウェイ岡山ではまだ危なっかしい場面が見られましたが、7月に入ると圧倒的なパフォーマンスでJ2を席巻。7月17日の第21節ホーム岐阜戦で、東京はついに首位に立ちます。
「繋ぐサッカー」路線の頂点は7月24日、国立で行われた熊本戦。相手にシュートらしいシュートを打たせず、5-0で蹂躙しました。


7月末、快進撃を継続せんと続くアウェイ北九州に乗り込んだFC東京。しかしそこで、東京はある男の一世一代の一撃で足をすくわれることになるのです。