第88回全国高校サッカー選手権 境高校 0 - 2 神村学園高校

正月も早や3日。お休みは今日でおしまい。明日からお仕事である。ホテルをチェックアウトし、大荷物をコインロッカーに放り込んで、駒沢を目指す。皆、寝正月を決め込んでいるのか、客足が少々鈍いように感じる。昼頃はまだ晴れていたが、雲量が多く、天気が悪化しそうな感じだった。



境高校は、その超守備的戦術が一部で話題となっていた。
あえて数字にすると6-3-1(あんまり意味ないけど)。神村学園の前の4人に対しそれぞれマンマーカーを付け、その後ろに2人が余るという4マーカー2スイーパーシステム。
岡崎が神村のキャプテン大山、山西がエースの黄、片岡がMF福野、加藤が同じくMF小谷をマークする。
マークの強度は、岡崎-大山・山西-黄が「どマンツー」、片岡-福野、加藤-小谷が「マンツー」、という感じ。違いは、「マンツー」のほうは、状況によってはマーカーを捨ててカバーリングに回ることがあること(という用法でよろしいでしょうか? 大熊さん&浅利社員!)。
彼らマンマーカー4人の後ろに影山と浅田が余る。
このバックス6人の前に中盤3人が並びスクリーンを形成する。
攻撃はロングボールを入れて松川を走らせるカウンター一本槍。走れるテクニシャン・田中を始めとする中盤3人が、献身的な走りで松川をサポートする。


神村学園のほうは、パス・ドリブル・シュート(シュートはたぶん)いずれにも秀でた前の4人が好き放題するサッカーw。要するに、難しいこと考えずに、この4人が織りなす攻撃を見てください、ということです。


試合のファーストシュートを放ったのは意外にも境高校だった。
1分、ロングボールに抜け出したFW松川が右サイドからクロスを上げると、長い距離を走ってきたMF藤田がボレーで合わせる。しかし、シュートをふかしてしまい、逸機。さらに3分、縦一本で抜け出した藤田が再びシュートを放つがGK正面。


この後は、前の4人がひたすらアタックを繰り返す神村学園、6バックでその猛攻をしのぎつつカウンター一発に賭ける境、という構図になる。


前半は境の守備が素晴らしかった。マンマーカーは4人ともタイトな守備で相手に全く自由を許さず、力づく(技づく?)の突破に対しても、スイーパー2人が的確なカバーリングで対抗する。感心したのは、危険と見れば、MFのマークに付いている2人・加藤と片岡がカバーリングに回る場面があるのだ。その判断とタイミングが絶妙。ただのベタ引きカウンターサッカーではない、状況を見る目に裏打ちされた知性の守りだった。


神村学園は境高校の思惑に完全にはまった格好。境の6バックに正面突撃をかけてはね返される展開が続いた。2トップは囲い込まれて潰され、MF福野は完全に封じ込まれる。唯一、小谷のドリブルだけが可能性を感じさせた。前半に少なくとも3回、ドリブルでDFをかわしてクロスを上げたが、境DFの諦めない守備の前に精度を欠き、シュートに結びつけられない。


境は23分にカウンターからチャンス。ロングボールに松川が走る。飛び出したGKをかわして突進するが、神村DFが必死の走りで追いついてクリア。これが、前半最大のビッグチャンスだった。


その後は、両チームとも決定機がなく、前半終了。境高校は、前の試合に10得点を奪った神村学園攻撃陣をなんとシュートゼロに押さえ込んだ(あくまで手元記録です。ただし、記録上はともかく、神村にシュートらしいシュートはなかったと断言できる)。


後半も神村がしゃにむに攻めてははね返される展開が続く。
ただし、単騎突撃しては玉砕を繰り返した前半とは違って、ワンツーを多用して境の守備陣を揺さぶり、シュートチャンスをつくっていった。
41分、神村キャプテン・大村の突破を岡崎がファウルで止め、警告。これで得たFKを松山が蹴っていくが壁に当ててしまう。42分、神村は松山のパスからボランチ永江が強ミドルを放つ。境のGK・倉がこれをファンブル、ボールがゴールに転がり込みそうになったところを危うく押さえる(手元記録では、これが神村のファーストシュート)。続く44分、小谷も強烈なミドルシュートを打っていくが、これはGK中村ががっちりキャッチ。さらに47分、神村はエリア内での細かい繋ぎから、最後は大山が見事なターンからシュートを放つが、GK中村が鋭い反応でビッグセーブを見せ、得点を許さない。


49分には境にFKのチャンス。約40mの距離を放り込む。1人(誰だろう?)が抜け出してシュート体勢に入るが、オフサイド判定。


神村学園はあいかわらず攻めあぐみ、境もロングボールの精度の低さが災いして有効なカウンターを繰り出せない。膠着状態になった55分、神村学園は完全に押さえられていた福野を下げて、村尾を投入した。


この選手交代がターニングポイントだった。


神村学園の選手交代に合わせて、境高校のマークも変わる。山西(それまでは黄のマーカー)がFWに入った村尾に付き、片岡(交代で下がった福野のマーカー)が黄に対応する、という関係になった。


ところが、このマーカー変更がしっくりいかなかった。黄と村尾が前後にポジションを入れ替えたとき、村尾のマークが浮いてしまう場面があったのだ。


この隙を神村学園が突く。60分、左サイドで黄がドリブルからヒールで戻す。それに合わせて、2列目から村尾が走り込み、そのままペナルティエリアへ切れ込む。マークは付ききれず、カバーリングも間に合わなかった。村尾が鋭いドリブルから放ったシュートが、GK倉の指先をかすめてゴール左隅に決まり、神村学園が先行した。


リードされた境高校は6バックを解除。(たぶんw)ゾーンの4バックに変更し、攻めに出る。
62分、神村DFのバックパスを追いかけたMF森山がGKと交錯、なんとかボールを奪ってシュートを打つが、球足は弱くDFにクリアされる。森山は足を痙っていた。64分、浅田(SWから左SBに変わっている)が攻め上がってアーリークロス。田中がループ気味のヘッダーでGKの頭越しを狙うが、神村GK吉満が後退しながら捕球。70分には、FW浅田が右サイドから突っ掛けてファウルを誘う(神村・大久保が警告)。FK、続いてCKとセットプレーが続くがものにできず。
境高校は、72分にFW原を投入して(足を痙っていた森山がout)、懸命に攻め続ける。


一方、マンマークから解放された神村学園攻撃陣は本来の能力を発揮し始める。正確なフィードやサイドチェンジからサイドを鋭く攻め上がり、アタッキングサードで即興的なパス交換からゴール前に迫る。73分、左SB松山がオーバーラップから強ミドル。75分に松山のクロスに大山が飛び込む(ジャストミートせず)。77分にはがら空きの左サイドを小谷が突進してシュート(GK正面)。79分、またもや松山がオーバーラップしてクロス。ファーサイドからの折り返しを小谷がシュートするが、境DFが懸命のブロック。しかし、これで得たCKからDF田中祐がGKに競り勝ってヘディングシュートを決め、神村学園が2点目ゲット。
CKを蹴る時点ですでにロスタイムに入っていたと思う。いずれにせよ、これで試合は決まった。


この試合、境高校の守りが見事だった。守備的戦術って否定的な眼でみられがちだが、ここまで徹底するとむしろすがすがしい。格上の相手に対し、自分たちがどこまで通用するか、徹底的にチャレンジしていた。彼らは、ちゃんと「自分たちのサッカー」をしていたよね。惜しむらくはカウンター狙いを徹底しているわりには長いボールの精度が低かったこと。選手権レベルだと「普通の選手」ばかりだが、1トップを務めた松川には可能性を感じた。飛び抜けたスピードはないが単騎突撃でDFに競り勝てる体の強さ・バランスの良さがある。
試合前は神村学園に注目していた観客が大半だと思うけど、途中から境に肩入れしている人がけっこういたような気がする。


いい試合を見せてもらいました。